本書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)のタイトルは刺激的だ。本当か? と疑うだろうが、本当なのである。
2018年11月1日、国会の衆議院予算委員会で、こんな質問が出た。
「トイレットペーパーの、何か人数当たりの何センチとかいう基準を決めていて、それが大抵足りなくなって、自衛官の方は自腹でトイレットペーパーを買っていると......。どこの役所で今どきそんなことがあるんですか? これは真っ先に解消していただきたいと思うんですけれども、いかがですか?」
著者の小笠原理恵さん(国防ジャーナリスト)が、Webメディア「日刊SPA!」に連載したコラムがきっかけだった。
当時の岩屋毅防衛相も、この事実を認め、善処を約束した。
本書24ページには「トイレットペーパーはすべて私物購入しています」という注意が書かれた駐屯地のトイレの写真が掲載されている。
本書によると、比較的予算が潤沢な航空自衛隊以外はトイレットペーパーに困っているという。陸上自衛隊では隊員が「マイ・トイレットペーパー」を持ち歩き、海上自衛隊ではあらかじめ「トイレ募金」をプールし、ペーパーを備蓄しているそうだ。
2019年度の防衛費予算は過去最大の5兆2574億円だが、装備は増えても、補給・輸送など兵站を削っている。トイレットペーパー問題はその象徴にすぎない。
小笠原さんは2014年から自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰し、請願活動の傍ら、情報発信をしてきた。本書では以下のような自衛隊の「ブラック企業」ぶりを紹介している。
・全国異動なのに引っ越し費用は半額「自腹」 ・駆けつけ警護で命を懸けてもPKO保険料は自己負担 ・患者が来ない自衛隊病院の医官は減る一方 ・自衛隊で取った資格は外では使えない ・定年が53歳と早いため年金受給の65歳までどう暮らせばいいの
予算不足は自衛隊の施設や装備品にも影響を与えている。
・予算が足りず制服がそろえられない ・弾薬が足りないため実弾射撃訓練の回数はクレー射撃の選手よりも少ない ・車のタイヤも仲間内で集めた「カンパ」で購入している
自衛隊の職場の問題を具体的に書いているので、著者は自衛隊に煙たがられるのではないか、と思ったが、取材に行くと、「トイレの人」と呼ばれ、激励されたそうだ。
著者は、「自由に物が言えない自衛官」に代わって、待遇の改善を求めている。その先の目標が「憲法改正」にあることも本書に書いている。「24万人もの自衛官とその家族、子供たちを『これ以上、陰で泣かせない』国にしましょう」と。
著者の自衛官の待遇改善への思いは善意だろう。しかし、一基数千億円にまで膨らんだイージス・アショアなどアメリカの要求をのんだ装備予算の増額が続く限り、末端の自衛隊員へのしわ寄せは続くのではないだろうか。イージスで揺れる秋田出身の評者の素朴な疑問だ。
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