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中国は「ウミガメ作戦」・・・さて、日本は?

日本をどのような国にするか

 『死ぬほど読書』 (幻冬舎新書)のベストセラーで知られる伊藤忠商事の元会長・丹羽宇一郎さん。多数の本を書いているが、本書『日本をどのような国にするか――地球と世界の大問題』(岩波新書)が最新刊だ。米中衝突、地球温暖化、南海トラフ地震、AIの未来などを念頭に日本の将来像を考えている。

 帯には「私たちはどう生きるか 直言する」とある。岩波文庫のロングセラー『君たちはどう生きるか』を踏まえ、具体的な課題に即して、若い世代向けに書いた本と言える。

「カムイ伝」連載の「ガロ」も定期購読

 丹羽さんは財界人としてはちょっと変わった経歴の人だ。名古屋大時代は60年安保闘争にも積極的に参加した。たまたま最初に受けて合格した伊藤忠に入り、そこで元陸軍参謀の切れ者、瀬島龍三氏の薫陶を受ける。最終的には社長、会長に上り詰め、リタイア後は国連世界食糧計画(WFP)の会長や駐中国大使なども務めた。

 戦後の財界人で、学生運動の経験もあり、且つ財閥系企業でトップを務め、さらに国連や外交の責任者も経験したというのはおそらく丹羽さんだけだろう。加えてベストセラーはもちろん、多数の著作を出し続けているというのも丹羽さんだけではないか。

 ベースになっているのは、仕事の経験や実績だけではない。実家が本屋をしており、子どものころから山のように本を読んできたということが大きい。それも硬軟織り交ぜて。

 「官能小説だって書ける」という筆力。マルクスやマックス・ウェーバー、レヴィ=ストロース、丸山真男、アダム・スミス・・・。漫画も「カムイ伝」連載の「ガロ」は定期購読していたというからウイングが広い。会社勤めをして家を購入するときは、座ってじっくり本を読むために始発駅を選んだというのは有名な話だ。

年間100回の講演

 本書はそうした実務と教養に裏打ちされている。「劣化するリーダーたち」「地球と世界の大問題を考える」「日本という国のかたち」の三部に分けて、当面する問題を考えている。特に第二部では、「地球温暖化問題をどう考えるか」について竹本和彦・国連大学サステイナビリティ高等研究所所長、「地震予知・対策はどこまで可能か」については林春男・国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長、「AIは私たちの社会をどこまで変えうるか」については西垣通・東大名誉教授とじっくり対談している。

 丹羽さんは、中国大使を辞めてから講演の機会が増えているそうだ。年間100回ぐらいになるという。頼まれるテーマはさまざまだが、最近は「これからの日本はどうなるのか」という話が多いそうだ。そうしたことを踏まえながら1年がかりで本書を書いたという。したがって本書は、全体としてこれからの日本がどのような課題に直面しているか、ざっくりおさらいするのに適していると言える。

 中国大使を務めていただけあって、中国がらみの話が多く出て来る。中でも興味深かったのは中国の都市間の人材獲得競争の話だ。中国では技術者について5つのランクがあり、上位ランク者の争奪戦が激しい。もちろん破格の条件を付ける。国内の地域同士が競争しているのだ。海外にいる中国人科学技術者の呼び戻しも盛んなのだという。これは「ウミガメ作戦」と言われるという話を聞いたことがある。

 アメリカは放っておいても世界から人材が集まる、中国は呼び戻している、さて日本は・・・と、つい考えてしまった。

 

関連で本欄では『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)なども紹介している。

 
  • 書名 日本をどのような国にするか
  • サブタイトル地球と世界の大問題
  • 監修・編集・著者名丹羽宇一郎 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2019年2月21日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書判・180ページ
  • ISBN9784004317616
 

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