読むべき本、見逃していない?

日本は世界有数の「億万長者大国」になっている!

  • 書名 なぜ日本だけが成長できないのか
  • 監修・編集・著者名森永卓郎 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年12月 8日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・232ページ
  • ISBN9784040822617

 日本経済のプレゼンスが、大きく落ち込んでいるという指摘を最近よく見かける。それはなぜなのか。経済評論家、森永卓郎さんの本書『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)は、その理由をかなり明確かつ大胆に書いている。要するに「日米同盟」の名のもとに、長い時間をかけて日本がアメリカに叩き売られてきたというのだ。

空洞化は3段階で進んだ

 世界のGDPに占める日本のシェアは1970年には6.2%だったが、右肩上がりで上昇し1995年には17.5%に達していた。しかし、その後は転落を続け、2010年には8.6%、16年には6.5%まで落ち込んだ。つまりこの20年余りで日本のGDPシェアは約3分の1に縮小した。

 こうした日本経済の空洞化は3段階で進んだという。第1段階は日本企業が海外生産比率を上げていく海外移転。第2段階は、1990年のバブル崩壊以降、日本企業の株式を海外資本が買いあさり、外国資本による株式保有が増えた。第3段階が、日本企業そのものが二束三文で外国資本に叩き売られた不良債権処理によるという。

 この3つは、実は大きなシナリオで結びついており、グローバル資本とそのお先棒を担ぐ構造改革派の日本人が実に30年がかりで日本経済を転落させた、というのが森永さんの見立てだ。

 起点は1980年代に遡る。米国は当時、自動車など日本企業の輸出攻勢に危機感を感じていた。85年のプラザ合意で、1ドル240円だった為替レートが、87年には120円の超円高になった。これにより日本の輸出企業は打撃を受けて景気が後退、政府と日銀は財政政策と金融緩和の経済対策を講じる。その結果、株高、不動産高騰のバブルが発生したが、ほどなくバブルがはじけて、不動産価格は急落、いわゆる逆バブル状態になった。これにより不動産をもとにした融資が担保割れし「不良債権」の山ができる。

 この時期の地価の下がり方は半端ではなかった。投機的な企業でなくても打撃を受けた。例えばダイエーは黒字決算を続けていたが、問題は銀行から借金して一等地の店舗を構えていたこと。逆バブルであえなく担保割れになり、産業再生機構送りに。多数の優良な関連企業も次々に売却された。

ブッシュ大統領に明言

 森永さんは、3段階の空洞化の中でも、第3段階の「不良債権処理」のダメージが一番大きいという。実際、日本のGDPシェアが本格的に転落を始めたのは2001年の小泉政権になってからだ。鳴り物入りで断行された「構造改革」が日本経済沈没の最大要因と、森永さんは考えている。

 01年の9.11テロ直後の9月25日、小泉首相はホワイトハウスにブッシュ大統領を訪ねた。そこでブッシュ大統領は意外にも経済安定のため日本の不良債権処理を要求、小泉首相は「今後2、3年で処理する」と答える。翌年9月の訪米で小泉首相は、外交評議会の席で不良債権処理の加速を表明した。この外交評議会は米国の新自由主義者の集まり。「誰がどう考えても、『問題企業』を米国に生贄として差し出すという宣言だった」と森永さんは振り返る。

 小泉政権で、「不良債権処理」で辣腕を振るったのは、経営コンサルタントの木村剛氏だった。日銀出身で、金融庁の顧問に招聘されていた。森永さんは木村氏の大胆な不良債権処理の方針について、当時から猛反対しており、論争などを繰り広げていた。その詳細は本書に縷々書かれている。

 結果的には多数の有名企業が処理され、そこにハゲタカファンドなどが群がって叩き売りされた。

 不良債権処理に大きな役割を果たした木村氏は、中小企業への融資を行う日本振興銀行の経営陣に入ったが、経営破たん、のちに逮捕された。

対米全面服従が続く

 

 本書は8章に分かれ、第7章では最近の状況、「安倍政権下でも続く格差拡大と対米全面服従」について書かれている。

 第2次安倍政権が発足してからの5年間で何が起きたか。本書はデータをもとに分析している。

 ・全産業の売上高は10.7%増え、経常利益は、売上高をはるかに上回る38.8%増。企業の持つ現預金は35%増。一方で従業員給与は2.5%しか伸びていない。従業員給与を抑制すれば、利益が増えて当然。「利益を従業員給与の引き上げや設備投資に回さず、ひたすらキャッシュをため込む。これがアベノミクス時代の企業の姿」。
 ・なぜそうなっているか。一つは役員報酬の決まり方が米国型になったことがある。業績連動給とストックオプションのような株価連動型の2本立てに。従業員に分配せず、利益を会社にため込む。業績連動給が増え、株価が上がって株価連動給も増える。思い切った設備投資で会社の経営が傾くと大変なので、ひたすら現状維持で数年間の役員期間を逃げ切る。そうすれば退任時に大金が残る。
 ・世界の富裕層についての調査によれば、100万ドル以上の投資資産を持つ人が日本に約316万人。米国に次ぐ。世界全体の17%を占める。GDPシェアは6.5%なので、日本は金持ち率が異常に高く、世界に冠たる億万長者大国だ。安倍政権で日本の実質GDPは累積で7%増えたが、実質賃金は累積で4%下がっている。富裕層が庶民の所得を奪う形で、一層金持ちになっている。

 森永さんによれば、カジノ法案は米国の要請。原発新設をやろうとしているのは、日本の原子力産業が、核兵器を含む米国の原子力産業の一翼を担う存在になっているため。働き方改革も、日本に進出した米国企業が、自国と同じように残業代を支払わないで労働者を使いたい、というのが本当の理由だという。

 最後の第8章は「これからどうすればよいのか」について論じている。

父は人間魚雷の被爆者

 森永さんはテレビで見ている限り温和な感じだが、本書はなかなか手厳しい。父親は毎日新聞の記者だったというから、そうしたジャーナリストの血を引いている感もある。本書ではその父について書いたくだりが少しある。

 あるとき、森永さんがテレビで「原爆は地上に落ちたのだと思い込んでいました」と発言したら、父に「上空で落ちたことも知らなかったのか」と叱られた。「俺は目の前で見た」というのだ。

 父は当時、海軍予備学生として潜水艦型の人間魚雷に乗り込むことになり、広島の基地で訓練を重ねていた。たまたま洋上に浮上したときに、ハッチを開け、原爆の爆発を目撃したそうだ。その瞬間、被爆していたことになる。戦後50年経って、息子の無知を知って初めてその体験を口にした。そのとき、母が悲鳴を上げたという。自分の夫が被爆者だということを知らなかったからだ。父は被爆の事実を隠して結婚した。当時は、被爆者だということが分かれば、結婚しづらかった。

 そんなこともあって、森永さんは「私は核兵器をこの世からなくすべきだと考えている」。ところが被爆国の日本が、核兵器禁止条約に参加しない。これも対米全面服従によるものと断言している。

 本欄では経済学者の野口悠紀雄氏が「失われた30年」を分析した『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)や、安倍政権が「当期利益第一主義」に陥っていると指摘した『株式会社化する日本』(詩想社新書)も紹介している。

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