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4人の直木賞作家×YOASOBI。こんな読書体験「はじめて」。

はじめての

 「4人の直木賞作家が、小説を音楽にするユニットYOASOBIとコラボレーション。」

 本書『はじめての』(水鈴社 発行、文藝春秋 発売)は、島本理生さん、辻村深月さん、宮部みゆきさん、森絵都さんが「はじめて」をモチーフに書き下ろした4つの物語からなるアンソロジー。

 文字はやや大きく、漢字にはルビを多めにふってある。早ければ小学校高学年から読めるだろう。当代きっての作家が集合しているだけあり、大人が読んでも「!」「?」「!?」が頭に浮かんでワクワクする作品ばかり。

島本理生 「私だけの所有者」 はじめて人を好きになったときに読む物語
アンドロイドの「僕」と所有者との間に何があったのか――。

辻村深月 「ユーレイ」 はじめて家出したときに読む物語
家出をして海沿いの駅に降り立った私は、花束が手向けられた夜の広場で――。

宮部みゆき 「色違いのトランプ」 はじめて容疑者になったときに読む物語
並行世界で起きたテロへの関与を疑われ、捕らわれた愛娘の夏穂――。

森絵都 「ヒカリノタネ」 はじめて告白したときに読む物語
幼馴染の椎太が好きでたまらない高校生の由舞は――。

 これら4つの物語を原作にYOASOBIが楽曲化し、2022年中に順次発表予定。5月末現在、「ミスター」(原作「私だけの所有者」)と「好きだ」(原作「ヒカリノタネ」)が配信されている。

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左から、YOASOBI・Ayaseさん、森絵都さん、宮部みゆきさん、辻村深月さん、島本理生さん、YOASOBI・ikuraさん。

4回目の告白

 ここでは、森絵都さんの「ヒカリノタネ」を紹介しよう。

 「取り返しのつかないものを取り返す。そのために私は旅立った。目のくらむほど遠い彼方への旅。私の思いを、もう一度、彼にとって初めてのものとするために。彼への思いを、もう一度、私にとって初めてのものとするために」

 「私、やっぱり椎太(しいた)が好きだ」――。その夜、由舞(ゆま)は椎太に告白するのをがまんできなくなっていた。由舞はこれまでに3回、椎太にフラれている。1回目は小1、2回目は小6、3回目は中2。

 3回目の撃沈のあと、「脱・椎太!」を宣言。おなじ高校に進学したものの、なんとしても「長年の友」のポジションを死守しようと心に誓った。ところが、5日前のほんの1、2分の会話で、これまでの「禁欲生活」は水のあわ。告白モードに突入したのだった。

 「あー、できることなら取り消したい。根こそぎ取り返したい、これまでの告白ぜんぶ」とグチを吐く由舞に、親友のヒグチは言った。「私、タイムトラベルの手伝いをしてくれる人、知ってるんだけど」

過去を回収して、もう一度

 由舞とヒグチは、「タイムトラベルの手伝いをしてくれる人」が住むマンションへ向かった。そこには、蒔枝(まきえ)と名乗る女性がいた。

 タイムトラベルの目的は過去3回の告白の回収、料金は1200円、過去の自分に未来に関する情報を与えるのはタブー......。タイムトラベルなど「怪しい茶番」くらいに由舞は思っていたが、蒔枝の話を聞くうちに「本物だ。これは本当の話なんだ」と緊張してきた。

 タイムマシンはない。ベッドに横になり、蒔枝と手をつなぎ、もどりたい過去を思うだけ。「本当に行く気?」と確かめる蒔枝に、由舞は言った。

 「これまでの告白をなかったことにして、まっさらな自分にもどりたい。重すぎる過去を清算して、もう一度、初めての告白をするみたいな気持ちで、椎太と向き合いたいんです」

 3年前、5年前、10年前。由舞はそれぞれの告白スポットに行き、過去の自分が椎太に告白するのを阻止しようとする。はたして、告白の回収はうまくいくのか。はたまた、告白を回収してしまって本当にいいのか。最後の旅を終えたとき、由舞の心境は――。

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 誰しも回収したい過去はあるだろう。もし過去にもどって「○○」をなかったことにできるなら、あなたは「○○」になにを当てはめるだろうか。

 ただ、よくよく思い返してみると、過去の自分にもそれなりの理由があったり、意志があったりしたことに気づく。本作を読みながら、にがい過去もだんだんちがって見えてきた。

 本書の特設サイトはこちら。4人の作家、4つの物語、小説と音楽のコラボと、楽しみが何層も重なっている。この「はじめての」読書体験を、1人でも多くの人にしてほしい。


■島本理生さんプロフィール
 1983年東京都生まれ。中学生時代に執筆を開始し、1998年「鳩よ!」掌編小説コンクールに作品「ヨル」を応募し当選、年間MVPを獲得する。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞、2018年『ファーストラヴ』で直木三十五賞を受賞。他の著書に『ナラタージュ』『よだかの片想い』『星のように離れて雨のように散った』など。思春期の繊細な感情を鮮やかに表現し、若い読者からの支持も高い。

■辻村深月さんプロフィール
 1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で直木三十五賞、2018年『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞。他の著書に『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『ハケンアニメ!』『朝が来る』『小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』など。思春期の心の痛みや不安を生々しく描きながらも、爽快なカタルシスのある作風で、多くの読者を得ている。

■宮部みゆきさんプロフィール
 1960年東京都生まれ。1987年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、1993年『火車』で山本周五郎賞、1997年『蒲生邸事件』で日本SF大賞、1999年『理由』で直木三十五賞、2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞を受賞。他の著書に『ソロモンの偽証』『ブレイブ・ストーリー』など。時代小説、SF、ファンタジーからホラーまで、様々なジャンルの作品に多数のファンを持つ。

■森絵都さんプロフィール
 1968年東京都生まれ。1991年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。同作品で椋鳩十児童文学賞、1995年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、1998年『つきのふね』で野間児童文芸賞、1999年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木三十五賞、2017年『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞。他の著書に『永遠の出口』『ラン』など。絵本・児童文学から大人向けの作品まで、愛とユーモアに溢れる筆致で幅広い世代に親しまれている。


※画像提供:水鈴社



 


  • 書名 はじめての
  • 監修・編集・著者名島本 理生、辻村 深月、宮部 みゆき、森 絵都 著
  • 出版社名水鈴社 発行、文藝春秋 発売
  • 出版年月日2022年2月15日
  • 定価1,760円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784164010044

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