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なにが「幸せ」? なぜ「道」に首が? 実は血なまぐさい漢字の成り立ち

眠れなくなるほど怖い漢字ミステリー

 常識レベルの漢字は押さえておきたい。大人の語彙力を身につけたい。そんな思いで漢字・語彙の本を手にとる人は多いだろう。

 ここではさらに踏み込んで、漢字に隠されたルーツを知ることができる1冊を紹介したい。出口汪さん監修の『眠れなくなるほど怖い漢字ミステリー』(三笠書房)だ。漢字は漢字でも、「怖くて面白くて奥深い漢字の世界」という切り口が斬新で興味深い。

 本書は、漢字を分解してパーツごとの意味を解説し、その漢字に込められたメッセージを読み解いていくもの。同じ漢字が一気にドラマチックに見えたり、真逆のイメージになったりして、漢字の概念が覆される。

漢字ミステリーの前に...

 まずは漢字の基礎知識にふれておこう。

 現在わかっている最古の漢字は、紀元前1300年頃の殷(いん)王朝で使われた甲骨(こうこつ)文字。殷では神の声を聞く「卜(うらな)い」が頻繁に行われ、吉凶の予測、戦の時期、天候の行方、王位の継承など、あらゆることが「卜い」をもとに決められた。当時の人々は「卜い」の記録を文字にして亀の甲羅(こうら)や獣の骨の表面に刻み、4000種以上の甲骨文字を生み出したそうだ。

 甲骨文字は、現代の絵文字のようなもの。人の姿、自然界の生き物、武器、儀式、死人、刑罰など、そして悲しみや苦しみも文字の形に反映された。甲骨文字は、いわば「漢字の秘密を解く鍵」。本書の漢字の解釈の多くは、甲骨文字の成り立ちに由来している。

 本書に収録されている100超の漢字から、イメージとのギャップが激しかったものを中心に5つをピックアップ。あの漢字に隠されたルーツは......

絶望から解放された幸せ

「幸」の漢字は、罪人の手足にはめられた手かせから成り立っている。なぜそれが「しあわせ」なのだろうか。

 古代中国では、「五刑」という刑罰が行われた。刑の重い順に、死刑、去勢・幽閉、鼻削ぎ、刺青、足切り。そんな悲惨な拷問にくらべれば、手かせで拘束されているうちはまだ安全。五体満足で解放されることは、このうえない「幸せ」だったのだ。

兵士の首を剣に突き刺した状態

 毎日のように目にする「県」の漢字。じつは、恐ろしい意味が内包されていた。

 時は古代中国、戦乱の世。県に住む人々は自分たちの土地を守るため、他の県からやって来る侵略者と激しい戦いを繰り広げた。ある戦いで、侵略側が勝利を収めた。勝利した県の将軍は、ひざまずく捕虜たちの前に立ち、剣を振り下ろす。斬り飛ばされた首を剣先で突き刺し、将軍は勝利の雄叫びをあげた。

 もうお気づきかもしれないが、「県」は首を逆にした形。斬った首を高所にぶら下げ、将軍は力を誇示したという。

「祝」と「口」で「呪い」の意味に

「呪」は「祝」の漢字と通じている。じつは、「呪」には「病気や悪魔を追い払う」「神仏に祈る」という前向きな意味がある。

 しかし人間という生き物は、何時も善良でいられるわけではない。他者の幸福を祝う気持ちは、やがて嫉妬に、そして最後は憎しみになり果てる。口にしたが最後、言葉は言霊となって力を持ち、憎い相手を不幸に陥れることを願う呪詛(じゅそ)となるのだ。

心が乱れて糸のように絡まること

「恋」のベースになったのは、「糸」と「言」から成る漢字。糸がもつれたような事情を整理しようとしても、うまくいかない様子を示している。これに「心」がつき、心がおおいに乱れ、悩みに悩んでいる、精神がこんがらがっている状態を表している。

 恋は時に、痴情のもつれを招くこともある。それは男女の間に限った話ではない。江戸時代には仇討ち(あだうち)が認められていたが、最も多かったのは、男性同士の愛憎から起こる「衆道敵討ち(しゅどうかたきうち)」だったそうだ。

魔除けとして埋められた人の首

 アジア、アフリカ、南米などではかつて、宗教儀式として「首狩り」を行っていた地域がある。古代世界では、人の頭部には霊力が宿ると信じられ、異民族を殺し、頭部を集めて保管することで自分たちの霊力が高まると考えられた。「道」の漢字の成り立ちは、この首狩り文化に近い。

「道」の部首である「しんにょう」は道で立ち止まる人の姿を表し、一方の「首」は人の頭部そのものをかたどった象形文字に由来している。つまり、「道」は他人の頭部を持って歩く人の姿を表している。

「一見、当たり前のように使っている漢字も、ちょっと立ち止まって見てみると、驚くような事実に出会う。(中略)一度知ってしまったら、何かで見たとき、次に書くときにはもう心おだやかではいられないだろう。」

 1つ1つの漢字に潜んでいる、血なまぐさいドラマ。それを知ると、漢字が生き物のように見えてくるから不思議だ。あなたの名前、住所、学校・会社の漢字のルーツはいかに......。

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■目次

漢字は「物の形をかたどった」ところから生まれた!
1章 名前や住所でよく見かける字だけれど......
――「也」「号」「県」......そんな形から来ていたなんて!
2章 見るだけで怖そうな字に隠されているのは......
――「草かんむり」に秘められた驚きの真実とは?
3章 楽しそうなイメージのウラで......
――「爽」にはなぜ、×印が四つもあるのか
4章 一度知ると、イヤでも映像が浮かんでくる......
――これは痛い、痛すぎる!!
5章 あの「生き物」が関係しているなんて......
――やっぱり昔の人もマムシやムカデは怖かった!?
6章 一見、「マジメな字」は本当は......
――「道」の首、「献」の犬、「盟」の皿......いったい何を表わすのか

■出口汪さんプロフィール
でぐち・ひろし/1955年東京生まれ。関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。広島女学院大学客員教授、出口式みらい学習教室主宰、出版社「水王舎」代表取締役。現代文講師として圧倒的な支持を得る。また「論理力」を養成する画期的なプログラム「論理エンジン」を開発、多くの学校に採用されている。著書に『出口汪の「最強!」シリーズ』『日本語力 人生を変える最強メソッド』『出口のシステム現代文シリーズ』『論理でわかる現代文シリーズ』『システム中学国語シリーズ』(以上、水王舎)など多数がある。



  • 書名 眠れなくなるほど怖い漢字ミステリー
  • 監修・編集・著者名出口 汪 監修
  • 出版社名三笠書房
  • 出版年月日2023年2月27日
  • 定価869円(税込)
  • 判型・ページ数文庫判・248ページ
  • ISBN9784837930433

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