読むべき本、見逃していない?

鈴木邦男さんが批判する「反天皇主義者」とは誰のことか

  • 書名 天皇陛下の味方です
  • サブタイトル国体としての天皇リベラリズム
  • 監修・編集・著者名鈴木邦男 著
  • 出版社名バジリコ
  • 出版年月日2017年8月19日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・384ページ
  • ISBN9784862382344

 鈴木邦男さんは特異な人だ。かつては新右翼を代表する活動家として知られた。最近は「民族派リベラリスト」とも称している。そうかと思えば、「反差別」の辛淑玉さんとも親しい。昨年(2018年)7月には幻の歌手、森田童子さんの追悼イベントにも名を連ねた。とにかく右から左、さらに文化人まで含めて交友関係の幅が広い。

 本書『天皇陛下の味方です』(バジリコ)はその鈴木さんが、自史を振り返りつつ、改めて年来の主張をまとめたものだ。1年半前の出版だが、最近も新聞広告でしばしば見かける。それだけ引き合いがあるということなのだろう。

「行動する保守」を批判

 本書はまず、「反天皇主義者たち」の話から始まる。「天皇が日々、心身を削りながら体現されている価値を否定しようとする者たち」の話だ。ひと昔前なら、共産主義者を念頭に置いていると思う人が多いはず。ところが違う。鈴木さんがターゲットにしているのは「行動する保守」を自任している人たちだ。具体的には、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などだ。

 自分たちが「反日」と認定する人々に対して、「執拗な批判」をくり返す。新大久保などでの示威行動で知られる。日の丸を掲げて、映画館に街宣車で乗り付け、気に入らない映画の上映を実力阻止しようとする団体などもある。大音量のスピーカーで、差別色の強いシュプレヒコールを叫び続ける。彼らの行動はたいがいネットにアップされている。つまり世界中の人が見ることができる。鈴木さんは、日本人のことを海外の人に誤解させかねないそうした言動こそが、彼らの言う「国辱」ではないかと指摘する。

「彼らは『愛国市民団体』を自称し、そう呼ばれることに誇りを持っているようですが、愛国者である彼らは自分たちの言動を天皇陛下の前でも披露することができるでしょうか。自分たちが流したネットの映像を天皇陛下にお見せすることができるのか」
「天皇陛下が、彼らの低レベルで下劣な言動を知って『おお、よくやってくれている』とおっしゃるとでも思っているのでしょうか。要するに、彼らは『反天皇主義者』なのです」

「一水会」を立ち上げる

 鈴木さんは1943年、福島県の生まれ。母が「生長の家」の信者だったこともあり、早稲田大に入ると、生長の家の学生寮で暮らすようになる。当時、生長の家は民族主義を主導していたので寮では毎日国旗が掲揚され、君が代を歌っていた。

 ところが大学キャンパスでは左翼学生がのさばっている。早大はその牙城だ。民族派の鈴木さんは彼らとしょっちゅうぶつかり、乱闘騒ぎをくり返していた。たいがいボコボコにされていたが、1969年、全共闘に対抗し、大学正常化を掲げる全国の学生組織、「全国学協」が結成された時は初代委員長になっている。

 大学卒業後は、いったん運動から退き、産経新聞に就職。販売・広告などを担当していたが、三島由紀夫事件にショックを受けて昔の仲間と勉強会「一水会」を立ち上げる。74年には、自衛隊が駐屯祭でストリッパーを呼んでいたことに抗議して防衛庁に乱入、逮捕されて産経新聞をクビになった。これを契機に本格的に右翼・民族派の運動にのめり込む。75年には連続企業爆破犯たちを扱った『腹腹時計と<狼>』を三一書房から出版。既成の右翼団体の在り様を否定する「新右翼」として脚光を浴びるようになる。

 その後はテレビや雑誌、トークイベントなどにも頻繁に登場し、単著、共著は100冊以上。扱うテーマは右翼、公安、天皇関係だけでなくプロレス関係まで幅広い。

「国体としての天皇リベラリズム」

 本書はそうした鈴木さんの多彩な活動のパーツを、改めてジグソーパズルの全体像として提示したものだという。「右向け右!」「愛国を叫ぶ反天皇主義者たち」「天皇と日本人」「戦争と昭和天皇」「新しい国体」「私、天皇主義者です」の6章に分けて、天皇と日本人の歴史や現状、自身の考える天皇像について論じている。

 キーワードは副題の「国体としての天皇リベラリズム」。戦前の「天皇制」の復活ではなく、戦後の民主主義、リベラリズムに支えられた天皇に価値を置く考え方だ。

 歴史をひもときながら「大半の反天皇主義者とは尊王を掲げた反天皇主義者」と認定する。すなわち、「自らの野望、利権、矛盾した妄想のための道具として天皇を捉えている者たち」と容赦ない。本書では最近の例として「安倍政権」の政治家や、ブレーンとされている八木秀次・麗澤大教授、評論家の西尾幹二氏ら「保守という反天皇主義者」たちが名挙げされている。そして安倍政権が続く現状を「戦後最大の危機」と言い切る。

 鈴木さんは、様々な人々との出会いと自分なりの真剣な内省を経て、若い頃とずいぶん考え方が変わったという。「転向じゃないかという批判は甘んじて受け入れます」。ただし、「国のかたちを考える時に天皇は一丁目の一番地だ、そのあたりは今も昔もまったく変わっていません」と胸を張る。

「愛国者としてのノルマは果たしている」

 なかでも「変わらない」のは三島由紀夫、野村秋介氏への熱い思いだ。本書で再三強調している。三島氏と共に自決した森田必勝氏は、早稲田大の後輩で、学生時代から昵懇だった。朝日新聞社長室に乗り込んで自決した野村秋介氏には可愛がられ、兄事していた。北一輝についても高く評価している。

 「転向批判」を受け入れると言いつつも、天皇や、自身の思想形成に大きな影響を与えた人々への思いは変わらない。

 評者は、2017年12月に日大芸術学部映画学科の学生たちが主催した映画祭「映画と天皇」で、「ゲストスピーカー」として登壇した鈴木さんの講演を聞いたことがある。上映されたのは、鈴木さんが企画協力した若松孝二監督の作品「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」だった。その席での鈴木さんの発言が記憶に残っている。

「私は愛国者としてのノルマは果たしている。4回も警察に捕まったし、左翼とも闘った。最近のネトウヨに批判されるいわれはない」

 本欄では関連で、『映画と天皇』(日本大学芸術学部、ユーロスペース)、『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、『評伝田中清玄』(勉誠出版)、『記者襲撃――赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)、『靖国神社が消える日』(小学館)、『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮文庫)、『旅する天皇――平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)、『宮中五十年』(講談社学術文庫)、『学習院』(文春新書)、『明治大帝』(文藝春秋)、『昭和の怪物 七つの謎』 (講談社現代新書)なども紹介している。

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