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保阪正康さんが両陛下と交わした「会話」とは?

天皇陛下「生前退位」への想い

 J-CASTニュースで「不可視の視点」を連載しているノンフィクション作家、保阪正康さんは現代史の専門家だ。「天皇」に関することがニュースになるとコメントを求められることが多い。

 本書『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮文庫)は2016年末、毎日新聞から単行本として出版され、さらにその後、新たに雑誌などに発表した文章を追加して今回の文庫本になっている。全体として16年8月の天皇陛下の「おことば」、「生前退位」に関する様々な思いが軸になっている。

多数の関係者に会う

 保阪さんには『昭和陸軍の研究』、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)、『帝国軍人の弁明』(筑摩書房)など昭和史や戦争についての多数の著作がある。アカデミズムの学者の場合、史料のみに寄りかかりがちなのに対し、保阪さんは多くの関係者に直接会って話を聞いているのが強みだ。

 『昭和の怪物 七つの謎』でも、東條英機の妻や秘書だった人物、瀬島龍三らの肉声が伝えられていた。どの本だったか忘れたが、これまでに確か300人の主要な旧軍人にインタビューしてきたと書いてあったと記憶する。

 ジャーナリストやノンフィクション作家は、一般に渦中の人物や関係者に会おうとするが、拒否されることが少なくない。にもかかわらず保阪さんが多数と会えているのは、地道で誠実な研究姿勢と温厚な人柄によるものだろう。一人に会えれば、また一人と、いわば数珠つなぎで会える人が増えていく。本書では「えっ、この人も?」と仰天する人物が登場する。

 天皇陛下と皇后陛下である。96ページから「天皇、皇后両陛下と私が交わした『会話』」という見出しで概要が書きつづられている。

両陛下しかいない応接室

 皇室関係者に「御進講」という形で、学者らが研究内容などをお伝えする機会がある、ということはよく知られている。公式の記録にも残されるという。しかし、保阪さんの「会話」は、そのような堅苦しいものではない。やはり、昭和史研究家として知られる半藤一利さんといっしょに両陛下とお会いしている。

 いわば「私的な形の懇談」だ。本書では「日時や回数にはふれない」と書いている。推察するに、そのような機会が複数回あったということだろう。「両陛下しかいない応接室」でお会いしたそうだ。そこでどのような会話をしたのか。著者は書いている。

 「誤解のないように言わなければならないのだが、私たちがたとえば昭和という時代の、軍事の話をしたからといって、天皇は、『あ、そうですか』とか、『そのようなものなんですね』と言うような言い方はしない。感想をいっさい述べられない」。

 本書ではそれ以上に深く、「会話」についての具体的な内容に触れることは慎重に避けている。

 16年8月のビデオメッセージについて、著者は「『平成の玉音放送』であり、天皇の『人間宣言』といっていいと思う」と書く。そこには肉声で会話した著者の確信というものがあるのだろうと思う。本書はそうした「厚み」をもとにした、天皇論として読むことができるだろう。

 本欄では関連で、『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『宮中五十年』(講談社学術文庫)、『皇室入門』(幻冬舎新書)、『旅する天皇――平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)なども紹介している。

  • 書名 天皇陛下「生前退位」への想い
  • 監修・編集・著者名保阪正康 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2018年11月28日
  • 定価本体520円+税
  • 判型・ページ数文庫判・272ページ
  • ISBN9784101333748

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