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昭和天皇の「人間宣言」は不思議で不可解...

宮中五十年

 伯爵家の四男として生まれ、数え10歳で明治天皇に仕え、それから50年にわたって宮中に仕えた坊城俊良(1893~1966)の回想録――これが本書『宮中五十年』(講談社学術文庫)の概要だ。原本は1960年に出版され、近代史研究の史料として、たびたび言及されてきたが、長く入手困難だったため、このほど復刊されたという。文字が大きく、文庫で100数十ページなので手軽に読める。

「明朗仁慈のご性格」

 明治35年、新しい時代の君主として存在感を高めていた明治天皇に、学習院在学中の著者は召し出される。当時、天皇のそばには4、5人の少年たちが仕えていた。大人たちが出入り禁止の奥御殿に控え、奥と表の取次の役目をしていた。近くで見る明治天皇は、大声で厳しく、几帳面ながら、やさしい思いやりを見せたという。

  著者は、明治天皇の没後、昭憲皇太后、大正天皇、秩父宮らに、さらに大正天皇の后である貞明皇后には、その晩年に皇太后宮大夫として仕えた。

 「明治天皇に近侍して」「昭憲皇太后のこと」「平民的な大正天皇」「『山の宮様』の思い出」「終戦後の貞明皇后」の順に貴重な体験や思い出を記している。

 この中で注目されるのは「大正天皇」のくだりだ。小見出しを眺めただけでも、「明朗仁慈のご性格」「隔てなき人間天皇」ときわめて好意的だ。大正天皇は在任期間が短く、途中で公務を退かれたこともあって、世間一般には印象が薄いが、著者は「本当に純粋な人懐こいお方であった」「お側に仕える者にとっては、まことに気の張らない、心からお慕わしいお方であった」と賛辞を惜しまない。

大正天皇は最も人間的

 特に興味深いのが「人間天皇」のくだりだ。「終戦後、占領政策の要請とかで、わざわざ"人間天皇"の御宣言があったが、私たちからいわせると、不思議でもあれば不可解でもある」と疑問を呈し、「大正天皇のごときは、もっとも人間的な、しかも温情あふるる親切な天皇であられた」と強調している。

 巻末の解説で、近現代史研究者の原武史・放送大学教授は、「坊城に言わせれば、大正天皇こそが最も人間的な天皇であり、逆にわざわざ『"人間天皇"の御宣言』をしなければならない天皇というのは一体何なのかという思いがあった」と補足する。

 大正天皇の優しさについては、J-CASTで保阪正康さんが連載している「不可視の視点」(15)でも指摘している。「伊藤博文が韓国の併合により、李王朝の王位を継ぐ李垠を日本に連れてきた折に、しばしば宮中に参内するのだが、その時に韓国語が話せるものがいないと寂しいだろうと自ら韓国語を覚えて会話をしたというエピソードも残っている」という。

 原教授は、本書の中で昭和天皇への言及が少ないことについて、本書原本の刊行当時、昭和天皇がまだ生きていたという事情があったとしても、「"人間天皇"の御宣言」に対する批判的な記述から察するに、「評価は大正天皇ほど高くはなかったのではないか」と推測している。なかなか興味深い指摘だ。

  • 書名 宮中五十年
  • 監修・編集・著者名坊城 俊良 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年10月12日
  • 定価本体680円+税
  • 判型・ページ数文庫・160ページ
  • ISBN9784065133828
 

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