囲碁も将棋も養成機関に入ってもプロになるには年齢制限がある。将棋は26歳だ。先日紹介した『泣き虫しょったんの奇跡』では、年齢制限にひっかかりプロになるのを断念したが、特例で再挑戦しプロになった瀬川晶司五段を取り上げた。囲碁は23歳と将棋よりも少し厳しい。本書『囲碁と悪女』(株式会社KADOKAWA)の著者、稲葉禄子(よしこ)さんは、11歳から16歳まで日本棋院院生として、プロ修業を行ったが、断念。その後、英国に語学留学、2000年から「NHK杯囲碁トーナメント」の司会を務めたのをきっかけにテレビ出演を重ね、現在は自身の囲碁サロンを主宰するなど、囲碁の普及活動をしている人だ。
表紙には碁盤に向かい、婉然とほほえむ稲葉さんの写真。タイトルの「悪女」といい、政治家小沢一郎氏の帯の推薦文「盤上では悪女 盤外では女神」といい、一筋縄ではいかない女性のようだという予感とともに読み始めた。
本書は各章が、「囲碁とアート」「囲碁と政治」「囲碁と経営」「囲碁と文学」など、各界の著名人と稲葉さんの交友録という体裁をとっている。実際、著名人は囲碁好きが多い。囲碁の大会の前夜祭には、各地の政治家、経済人が顔を見せるが、将棋の場合、あまりそうしたことはない。囲碁は権力者の趣味、たしなみであり、囲碁を通じて気脈を通じ合う気風が日本の伝統にあるのだ。
本書に登場する著名人も、書家の柳田泰山氏、政治家の小沢一郎氏、与謝野聲氏、後藤田正純氏、起業家の堀江貴文氏、脳科学者の茂木健一郎氏、作家の渡辺淳一氏、夏樹静子氏など、そうそうたる顔ぶれだ。
しかし、稲葉さんは決して順調にいまの位置にいる訳ではない。留学から戻り、いくつかの就職面接を受けたが落ちて、ビジネスホテルのフロント係をしていたある日、依田紀基九段(元名人、著書に『どん底名人』)の紹介で、NHKの番組アシスタントに起用されたという。なんとか3か月を乗り切り、その後あちこちから声がかかるようになった。
現在は、自身の囲碁サロンを経営し、著名人を含めたお客さんを指南する日々だが、本書を書いたのは、将棋の先崎学九段(著書に『うつ病九段』)に「いつまでもテレビにしがみついているのは見苦しい。そろそろ本を書いたらどうなの?」と言われたのがきっかけだったと明かしている。
囲碁界、将棋界、政界を代表する傑物に愛されるゆえんはなんだろう? 決してその美貌だけではないはずだ。プロにはなれなかったが、その周辺で囲碁や将棋を支えることはできる。斯界への愛の深さが彼女の道を切り開いたのだろう。依田さん、先崎さんの著書への本欄コメントも合わせて読んでいただきたい。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?