『絶滅危惧の地味な虫たち――失われる自然を求めて』(ちくま新書)は、環境省のレッドリスト(絶滅が心配されている生き物の種名一覧)にあげられている昆虫の中から、実際に自分で見たり捕まえたりした虫たちを選び出し、愛をこめて紹介している本だ。
50科を超える虫たちが取り上げられているが、「より小さく、より目立たなく、より知られていないものを前面に」を基準に選択したという。つまり、素人の私たちは、一生目に触れず、万が一見かけたとしてもそれが何者なのか決してわからないであろう虫たちばかりである。
しかし、ページをめくるにつれ、筆者の昆虫愛にほだされ、「一度見てみたい」という気が起きてくるから恐ろしい。
たとえば、メクラチビゴミムシ。ラテン語の学名は「素晴らしき者」といった意味をもつらしいのだが、洞窟や水気の多い地下の砂利の隙間などにすむうちに目が退化したこともあり、日本ではこんな無様な名前で生きている。この仲間には、絶滅危惧分類の上から2番目の「IB類」に入るものが2種(ウスケメクラチビゴミムシ、ナカオメクラチビゴミムシ)もあり、何十年ぶりかに再発見されたりしているのに、保全の手段は何もされていない。「絶滅したと思われた魚・クニマスの再発見と同等の学術価値があるのに」と著者はぼやく。
ケラトリバチは、オケラだけに卵を産み付ける。オケラの掘った穴を見つけるとその中を走り回る。ひとしきり暴れた後は外に出て穴からオケラが顔を出すのをじっと待つ。顔を出した途端、とびかかって毒針を刺し、気を失っている間に体に卵を産み付ける。そんなケラ専ハンターが日本には2種いる。
しかし、「ミミズだってオケラだってアメンボだって......」と親しまれたオケラやアメンボは、今や急速に身の周りから消えつつある。ケラトリバチの保全の難しさは想像に難くない。
奴隷狩りをするアリの話は有名だが、日本にもイバリアリという奴隷狩りをするアリが1種類だけいた。トビイロシワアリの巣を乗っ取り、女王蟻を殺して、残った働きアリをこき使う。食事の支度すら自分ではできない。働きアリはだんだん死んでいくので、労働力を補給するためによその巣から、蛹や卵を奪いにいく。これが奴隷狩りである。
ごく限られた場所ではあったものの、2つの県で確認されていたが、今ではただ1カ所になってしまった。それなのに、「なぜか最近レッドリストから外されてしまった」と国の冷たい仕打ちを嘆く。
昆虫好きに変わり者は少なくない。英国の著名な昆虫学者、故ウィリアム・ハミルトンは、「この世には昆虫にとりつかれた人々」がおり、自分もその一人だとして、「遺体はブラジルのジャングルに埋葬して欲しい。彼の地にいる肉食コガネムシのえさになり、彼らの子孫の中で生き続けたい」と願った。本書の著者もまた、「昆虫にとりつかれた人々」の一員なのだろう。そして、こういう日本人がまだいることが、頼もしく思える。
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