平成もあとわずか。さまざまな角度から振り返る本が目立っている。本書『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)もその一つだ。著者の矢部万紀子さんはコラムニスト。朝日新聞出身という生真面目さと、生来のミーハーな部分を適度に混在させながら、美智子さまを軸に、皇室の今とこれからについての思いをつづっている。
まずは真面目な部分から。多くの日本人を感動させた昨年(2018年)12月の天皇陛下の記者会見。矢部さんはその後半に注目する。結婚60周年、皇后美智子さまについての話になって、天皇陛下が「私」という主語で語る部分がグンと増えた。
「結婚以来皇后は、常に私と歩みを共にし、私の考えを理解し、私の立場と務めを支えてきてくれました」
この発言部分だけで「私」が3回。このあと「天皇としての旅」の話になるのだが、そこでも「皇后が、私の人生の旅に加わり・・・」と、また「私」が出てくる。
矢部さんは、天皇の「旅」が成功裏に終わろうとしているのは、「美智子さまが『私』としての陛下を支えてこられたからこそ、実現した。それを改めて教えてくれた会見だった」と総括する。
NHKが5年ごとに行っている「日本人の意識」調査によると、平成になって天皇に「好感」を持つ人が増えたことがはっきりしている。「尊敬」の感情を持つ人は、昭和から平成になって、いったん減ったが、のちに持ち直した。仮にいま世論調査をしたら、これらの数字は相当アップしているだろう。そこには美智子さまの多大な貢献があった、というのが著者の基本スタンスだ。多くの国民も同感するに違いない。
本書は「マリア・テレジアと美智子さま」「『皇后陛下』への伏線」「後に続くお二人」「ストーリーなき時代と皇室」の4章に分かれている。矢部さんは新聞社時代に「週刊朝日」や「アエラ」の編集部で皇室ウォッチャーを続けてきた人だ。編集者として『美智子さまのお着物』を刊行したこともある。
さすがにちゃんと見てるな、と思わせるのは、宮内庁のホームぺージ「皇室関連報道について」というコーナーへの言及だ。週刊誌などで皇室について様々なことが報じられているが、余りにひどい事実無根や誤認の記事については、このコーナーで宮内庁が反論、抗議することになっている。矢部さんはあるとき、宮内庁のそうした反論文から、「おやっ」と思う一行を見つける。
「常に周囲をお気遣いになっている皇后陛下のお立場を鑑みるに、そのようなご発言をされることなど、到底考えられません」
さる週刊誌に「皇后発言」として紹介された文言は「事実ではない」ということでの抗議文だ。矢部さんは「常に周囲をお気遣いになっている」という一行にくぎ付けになった。「抗議」の中で、皇后の人柄を持ち出している。矢部さんもそれまでの取材や見聞で、皇后がそういうお人柄だということは承知していたが、宮内庁長官が「反証」の切り札として明言したことに驚いた。そうしたお人柄だということを、役所が公式に認めたことになるからだ。
本書は、生真面目な話ばかりではなく、少しくだけたネタも登場する。たとえば、「卓越した被写体であるということ」という項目がある。
美智子さまは、ご成婚の当時から、多くのカメラマンに囲まれ写真を撮られてきた。そうした中で、どのカメラにも不平等が生じないようにとする自然な気配りが身についているという。
行幸啓先の撮影ポイントで陛下が足を止められる。すぐそばに美智子さまがたたずむ。その「立ち位置」が絶妙なのだという。皇后になってから被る帽子は額の上にのるような小さなお皿型が定番。これは広いつばで、陛下の顔を隠さないような配慮をしているからだという。
本書によれば、平成とは美智子さまの「類まれな美しさ、才能、努力、お人柄に支えられた奇跡の時代」であり、「美智子さまが退かれる喪失を、日本人は乗り越えられるのか?」と心配する。
後半では、雅子さま、紀子さまらについても言及している。この辺りになると、矢部さんの筆は一段と滑らかになる。「ユヅと佳子さまが結婚するしかない」などという一文もある。もちろんこれは矢部さんの見解ではなく、そういうことを言っている人もいる、というネタだ。確かに佳子さまは少女時代にフィギュアスケーターだった。それぞれのファンは、どう読むだろうか。
本書には、よく言えば皇室ウォッチャー、別の見方をすれば「美智子さまオタ」の長年のうんちくと関心事、そして「美智子さま愛」が詰まっている。したがって普通の女性読者に身近な内容となっている。
関連で本欄では、『美智子さまの60年』(宝島社)、『美智子さま』(宝島社)、『旅する天皇』(小学館)なども紹介している。また皇后と故・石牟礼道子さんとの「秘話」についてはJ-CASTニュースで報じている。
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