北海道をめぐるこのところ最大のニュースと言えば、昨年(2018年)9月6日未明に発生した最大震度7の北海道胆振東部地震だろう。厚真町を中心に41人が犠牲になった。2018年はまた「北海道」と命名されて150年の節目の年だった。地震の影響が残る中、さまざまな記念イベントが行われた。読売新聞北海道支社は昨年、北海道にゆかりのある人々の生涯を振り返る連載「先人探訪」を道内版に掲載。それをまとめたのが本書『ほっかいどう先人探訪』(柏艪舎 発行、星雲社 発売)だ。
「北海道」の名付けの親とされるのは、江戸末期から明治にかけての探検家、松浦武四郎だ。1869年7月武四郎は明治政府の開拓使の役人として蝦夷地に代わる名称を政府に提案した。候補は「北加伊道」「日高見道」「海北道」「海島道」「東北道」「千島道」の6案。最終的に「北加伊道」の「加伊」が「海」になり、同年8月15日に「北海道」と命名された。「カイ」はアイヌのことばで「この地で生まれたもの」という意味で、その思いが込められていた。見慣れた「北海道」という名前にそういう経緯があったことを初めて知る人もいることだろう。
150年間に北海道にかかわった膨大な人の中から50人程度をピックアップし、ゆかりの地を訪ねて取材、写真を撮影するというのは、たいへんな仕事だったと思う。なんと言っても人選が難しい。あとがきで同支社専門委員の片岡正人さんは400人近くのリストから時代、ジャンル、ゆかりの地域、知名度などを考慮しながらバランスよく選んだが、「泣く泣く絞り込んだ結果」と書いている。
石川啄木、小林多喜二、三浦綾子、高倉健、榎本武揚、大鵬幸喜、内村鑑三、ビクトル・スタルヒン、竹鶴政孝あたりは誰もが知っている有名人だが、それ以外の名前は道外での知名度は低いかもしれない。しかし、それでいいと思う。北海道に貢献したが、道外では知られていない人はたくさんいるからだ。たとえば「開拓・農業」の分野では、初めて名前を聞くけれども興味深い人々が並んでいる。
中山久蔵 寒冷地稲作の先駆者 エドウィン・ダン 北海道酪農・競馬の父 川田龍吉 純愛が生んだ男爵イモ
それ以外の分野でもユニークな顔ぶれが並ぶ。
大川春義 クマ撃ち名人 生涯102頭 伊福部昭 映画「ゴジラ」の作曲家 萱野茂 アイヌ民族初の国会議員
後年、東京音楽大学学長も務めた伊福部昭(1914-2006)は、帯広市郊外の音更で育った。アイヌの子どもたちと一緒に遊び、独特の民族音楽に触れたことが作曲家の原点となったという。ゴジラの音楽にはその影響も感じられる。
どの項目も豊富なカラー写真と地図があるので、北海道旅行のガイドブックとしても使えるだろう。
読売新聞が北海道で発行をはじめて60周年を記念して、もとになった連載は行われた。ファクシミリを利用して読売、朝日、毎日の東京各紙が北海道に進出したが、圧倒的に強大な取材・販売網をもつ北海道新聞の壁は厚く、苦戦の歴史だった。その中でも読売は巨人ファンや道内の自衛隊関係者の購読が多いため、比較的元気だったと言われている。まだまだ体力があるので、連載も実現したのだろう。北海道新聞ではなく、読売新聞が編集したという点に敬意を表したい。
発行元の柏艪舎は札幌の出版社。本欄では『死刑囚 永山則夫の花嫁』、『心の王者 太宰治随想集』、『海わたる聲』を、また松浦武四郎関係では『アイヌ人物誌』(青土社)を紹介済みだ。
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