新書にしては分厚い。324ページもある。本書『皇室入門』(幻冬舎)は、副題にあるように、「制度・歴史・元号・宮内庁・施設・祭祀・陵墓・皇位継承問題まで」盛りだくさんだ。皇室についてのAからZを一冊の新書に凝縮している。「入門」と銘打っているが、余り知られていない情報も含まれている。
著者の椎谷哲夫さんは1955年生まれ。東京新聞(中日新聞東京本社)で5年余り宮内庁担当をしていた。現在は関連会社役員。本書は会員制雑誌に4年余り筆名で連載したものを大幅加筆し、まとめ直したものだ。
全体は、「皇室制度と歴史」「天皇のお務め」「皇室を護り支える組織と施設」「宮中祭祀と陵墓・伊勢神宮と出雲大社」「昭和から平成、そして新たな御代へ」「近現代の天皇と皇位継承」の6章に分かれている。それぞれの章に、さらに「中分類」、その下に「小分類」の項目が並んでいる。
「皇室制度と歴史」の章の場合、「200年ぶりの譲位」「皇室の構成と仕組み」「元号の歴史と改元」「『天皇』の歴史」という4つの中分類がある。その中の「200年ぶりの譲位」には、小分類として「『譲位』と『退位』はどう違うのか」「『皇太子』はなぜ空位となってしまうのか」など5項目の説明がある。
「小分類」の項目は全部で160以上あり、実に幅広くいろいろな疑問やトピックスを紹介している。巻末に参考資料が列挙されており、おおむね先行書籍のエッセンスをまとめたものだということがわかる。
「小分類」の話の中には、なかなか興味深いものもある。たとえば「昭和天皇が病床に伏される直前に燃やした謎の手紙」について。
吐血して病の床に伏される5日前、昭和天皇はその日の当番だった中村賢二郎侍従をインターホンで呼び出され、「手紙を燃やしたいのだが」と相談されたそうだ。天皇はベランダに出て、中村侍従が持ってきたバケツの中で自分で封筒に火をつけて燃やし始めた。中村侍従が退任後に出版した著書『続 吹上の季節』によると、「完全に燃えたかな」「はい、灰になっております」「見られない」「はい、大丈夫でございます」などのやりとりがあったという。
中村侍従の記憶だと、手紙は絵ハガキ大の封書で、裏に「裕仁」と直筆で書かれ、表には2文字が書かれていたが、何と書いてあったかまでは確認できなかったという。「今となってはすべて謎である」と椎谷さん。
宮内庁記者は、ジャーナリストとして、皇室に最も近い場所で皇室をウォッチしている人たちだ。そんなこともあり、週刊誌などの「悪意ある記事」についても論及している。いろいろ問題な記事があるということなのだろう。著者は、そうした記事の情報源が"身内"であるはずの元侍従や宮内庁職員だと分かるような場合もあったといいます、と婉曲に指摘。「宮内庁が一枚岩になって新天皇と新皇后をお支えすることが、それこそ何よりも大切」と力を込めている。
天皇や皇室、皇族関連で本欄では『学習院』(文春新書)、『美智子さまの60年』(宝島社)、『朝香宮家に生まれて』(PHP研究所)、『宮中五十年』(講談社)、『明治大帝』(文藝春秋)、『昭和天皇の地下壕』(八朔社)、『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書)、『古代オリエント史と私』(学生社)、『旅する天皇』(小学館)など多数紹介している。
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