沖縄県名護市辺野古のアメリカ軍基地の移設工事への反対運動が続くいま、本書『宝島』(講談社)が第160回直木賞候補になった意義は大きい。なぜ沖縄の県民は普天間飛行場の代替施設の移設工事に強く反対するのか、なぜその先頭に知事が立っているのか、沖縄と米軍基地についてのさまざまな疑問が本書を読めば理解できるだろう。
と言っても、難しい本ではない。エンターテインメント小説の王道を歩みながら、沖縄の戦中、戦後が浮き上がる仕組みになっている。4人の若者の群像劇である。オンちゃん20歳、レイ17歳の兄弟とグスク19歳とオンちゃんを「ニイ、ニイ」と慕う娘のヤマコ。男3人は米軍基地から生活物資を盗み取る「戦果アギヤー」の面々だ。盗んだ食料品や衣類、医薬品、酒などを気前よく住民に分配するリーダーのオンちゃんは、島の英雄視されていた。戦争の勝者、アメリカから生きるために物資を調達する行為は、島民による雪辱戦でもあった。
極東最大の軍事基地、米軍嘉手納基地に侵入した3人は、見知らぬ「戦果アギヤー」たちとともに米軍に見つかり、追われる羽目に。オンちゃんだけが行方不明になる。
長じてレイは暴力組織に、グスクは琉球警察に、ヤマコは教員にと立場を変えながらも姿を消したオンちゃんを探す歳月を送る。
『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一著、2008年)に詳しいが、戦後沖縄の暴力組織は複雑かつ激しい抗争を繰り広げた。基地周辺の利権をもつ「コザ派」と最大都市「那覇派」の対立、そこからの分裂。レイは兄の消息を探るため、その均衡に身を置く。
前科がありながら警察官となったグスクは、米民政府の諜報部員にスカウトされる。「アメリカのスパイになるのか」と抵抗するが、米兵による犯罪を防止するためにと説得される。さらに米軍にコネをもち、基地で行方不明になったオンちゃんの手がかりを得たいという思いもあった。
教員になったヤマコは復帰運動にかかわり、瀬長亀次郎や屋良朝苗ら指導者とともに運動の中核となる。
この後、物語はB52の墜落・爆発炎上事故、知花弾薬庫でのVXガス放出事故、1970年のコザ暴動など現実の基地をめぐる事件、事故を下敷きに登場人物が派手に動き回る。
あるクリスマスの夜、児童養護施設にはブリキの人形、船や飛行機の模型、ぬいぐるみ、運動靴......すべてアメリカ製の品物がプレゼントのように届けられた。同じ夜、コザのあちこちで匿名の贈り物があった。小学校には文房具、病院にはヨードチンキ、農家には肥料、かつての英雄の真似を誰かがしているのか。オンちゃんは生きているのか、生還したのか、というクライマックスに向かって、すべてが収斂してゆく。
著者の真藤順丈さんは、2008年『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞を受賞してデビュー、本書で山田風太郎賞を受賞した。沖縄を舞台にした長編小説としては沖縄出身の池上永一さんが琉球王朝を舞台にした『テンペスト』、沖縄戦を取り上げた『ヒストリア』などが想起されるが、真藤さんは東京出身にもかかわらず、本書でみごとな「ウチナーグチ」(沖縄方言)を披露している。
タイトルの『宝島』とは「命どぅ宝」(命こそ宝)という沖縄でよく膾炙したフレーズから取ったものだろう。現実に沖縄で、そして作中で無残に散っていった無数の命への思いが込められている。
(編集部追記 『宝島』は直木賞を受賞した)
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