恩田陸さんの本書『八月は冷たい城』は、本欄で紹介済みの『七月に流れる花』と対になる物語。書店で平積みされた数多くの文庫本を眺めていたら、この2冊が目に留まった。入江明日香さんによる童話風の装画が美しく、また、細部に目を凝らすとダークな感じもあり、神秘的な魅力を放っている。
2つの物語は同時進行で描かれていて、『七月~』を読んで間を空けずに『八月~』を読むと全体像が掴みやすい。『七月~』は少女の側から「夏のお城」の秘密に迫り、『八月~』は少年の側から「みどりおとこ」の正体に迫る。2冊とも講談社より2016年に単行本として刊行され、18年に文庫化された。
『七月に流れる花』は「同じ夏、塀の向こう側で起きていた出来事は、また別の新たな物語となる」の一行で幕を閉じた。「別の新たな物語」は本書『八月は冷たい城』で描かれ、「夏流城(かなしろ)」での少年たちの林間学校がはじまる。
光彦(てるひこ)は「みどりおとこ」から、夏流城の林間学校への招待状を受け取る。病気でもうじき亡くなる母を見送る機会を与えられたのだ。光彦の母の病気は「緑色感冒」。発症すると、病の進行とともに姿が変わり、近親者、特に子どもへの感染力が非常に高くなる。そのため家族は患者に会うことができず、隔離されたお城へ患者の子どもが招かれる習慣ができた。
光彦とともに林間学校に参加するのは、幼馴染みの卓也、大柄でおっとりした耕介、かつて城を訪れたことがある勝気な幸正。四人がここに集まり夏の時間を一緒に過ごす理由は「もうすぐ訪れる家族の死という冷徹な事実」だった。
城に到着した彼らを迎えたのは、首をぽっきりと折られた四本(彼らの人数と同じ数)のひまわり。「これみよがしに置かれた、悪意に満ちた夏の花」は一体誰が用意したのか? その後も、鎌が落ちてきたり、誰かがいつのまにか外と行き来していたり、卓也が池に突き落とされたり...と不穏な事故が続く。五人目の誰かがいるのか、もしくは誰かが嘘をついているのか――。
最後に「みどりおとこ」の正体を知ると、これまでの強烈な化け物の印象は弱まり、人間の象徴のような尊さを感じた。家族の死に怯えながら、謎だらけの奇妙な空間で奮闘した少年たちに、ようやく光が差し込んだ気分になりホッとした。
恩田さんは、1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒業。1992年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞、17年『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞をダブル受賞した。
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