昨年(2017年)『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸さん。メディアで受賞の様子を見たのが記憶に新しい。恩田さんの作品は、ミステリー、ホラー、SF、ファンタジー、青春小説など多岐にわたる。本書『七月に流れる花』は一体どんな物語だろうかと、期待を寄せた。
本書と『八月は冷たい城』は、2016年に講談社より単行本として刊行され、今年(2018年)文庫化された。2つの物語の舞台は「夏のお城」。『七月に流れる花』は少女側から、『八月は冷たい城』は少年側から、その秘密に迫る。
2003年、本の復権を願い「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」を合い言葉に「ミステリーランド」というレーベルが創刊された。この2冊は、「ミステリーランド」全30巻の最後を飾る作品であり、読者の年齢層に関係なく味わえるダーク・ファンタジーとなっている。
ミチルは、坂道と石段と石垣の多い静かな町――夏流(かなし)に引っ越してきた。六月というはんぱな季節だったから、友達もできないまま夏休みを過ごすことになりそうだ。終業式の日、ミチルは大きな鏡の中に、全身緑色をした「みどりおとこ」の影を見つける。恐怖を感じて必死に逃げたが、いつの間にかミチルの手元には一枚のカードが残されていた。「あなたは夏流城(かなしろ)での林間学校に参加しなければなりません」――。
呼ばれた子どもは必ず行かなければならない決まりがあり、ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城での共同生活を始める。城には三つの奇妙なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三回鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら、色と数を報告すること。ミチルはなぜ城に招かれたのか? いつになったら帰れるのか? 謎に満ちた夏休みが始まる。
空白の行が多めに配置されていたり、立体的なイメージが浮かぶ場面が次々と展開したり、大人が読むと、挿絵のない大人向けの絵本という感じだ。子どもが読むと、自分にもこんな出来事があるかもしれない...と思い、ゾクッとしてワクワクするだろう。物語の大半を占める不思議な世界が、最後に来て一気に現実のものとなり、腑に落ちる。急に現実に引き戻された気もするが、ほの暗く奇妙な感覚は残る。「同じ夏、塀の向こう側で起きていた出来事は、また別の新たな物語となる」として『八月は冷たい城』に物語は続く。
恩田さんは、1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒業。1992年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞した。本書について「暗い話なのですけれど、子どもって意外とダークなものが好きですよね。私も好きでしたし。『世界は見た目通り美しいものじゃない』ということに、子どもたちは薄々感づいている。だから、そういうきれいごとじゃない話として書いたつもりです」と語っている(「講談社BOOK倶楽部」より)。
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