「禁断の愛」と聞いて、どんな関係性が思い浮かぶだろう。マスコミでは不倫を盛大に取り上げ、10~12月期は教師と生徒の関係をテーマにしたドラマが放送されている。禁断の恋愛をすることは非現実的だからこそ、他人の不倫に関心を持ち、ドラマの登場人物に自分を重ねて疑似体験したくなるのか。香月夕花(かつきゆか)さんの本書『永遠の詩』(文藝春秋)で描かれているのは、数ある禁断の愛の中でも、息子と、父の再婚相手によるもの。
元基の実母は、元基を産んだことで心の病になり、しばらく入院した後に亡くなった。元基には、母親がどういうものか見当がつかない。ただ、「何か大切なものが抜け落ちているような、ずらりと並んだ背骨の中で、大事なパーツが一つだけ欠けているような」ボンヤリとした感覚がある。
3年前、元基は父の再婚相手である希帆と初めて会い、握手を交わした。希帆の小さな手がギュッと握り返してきただけで、胸にジンと響くものがあった。「今まで、自分に欠けていたものはこれだったんじゃないか」と、元基はハッとする。希帆は、いつもはしゃいでいるような可憐な声で、顔も体つきも全てが小さかった。9つ上だと聞かされても信じられないほどだった。
元基が16歳になった初夏、希帆からはっきり誘われたわけでも、抵抗されたわけでもない。ただ、確かに元基が自分の意思で彼女を抱いた。その後も2人の関係は続き、元基は「寝ても覚めても、欲しがるか、悔いるか、そのどちらか」だった。ところが、彼女の口から「弟」が生まれると告げられた元基は、本当に「弟」なのかと疑念を抱いて家を飛び出す。
バイト先のカフェで寝泊まりして実家と距離を置いていた元基は、高校卒業後に知人からガラス工芸作家の雨宮を紹介され、未経験ながらアシスタントとして住み込みで働くことになる。雨宮や、カフェのマスターの過去に触れながら、元基はいまだに希帆に溺れてしまいそうになる弱さと向き合う。
元基が希帆に惹かれるのは、実母との思い出が一切なく、母親の愛情を渇望していたことが原因だろう。それに加えて、魅惑的な希帆が思わせぶりな態度をとるから、元基は完全に自分を見失う。希帆の誘惑を振り切り、希帆への思いを断ち、新たな人生を見い出すために、ガラス工芸の道に飛び込んだ元基。ガラスの美しさ、ものを創造する喜びを知った元基は、希帆との禁断の愛にどう決着をつけるのか――。
著者の香月さんは、1973年生まれ。大阪府出身。京都大学工学部卒業。2013年「水に立つ人」でオール讀物新人賞を受賞。16年短篇集『水に立つ人』を刊行。本書が初めての長編となる。人物に関してより詳細な描写があると、個々の輪郭がくっきり浮かび上がると思ったが、元基の苦悩、ここから抜け出したいという切実な願いは伝わってきた。
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