読むべき本、見逃していない?

全国模試2番、6番、15番たちの東大闘争・・・

  • 書名 東大闘争 50年目のメモランダム
  • サブタイトル安田講堂、裁判、そして丸山眞男まで
  • 監修・編集・著者名和田 英二 著
  • 出版社名ウェイツ
  • 出版年月日2018年11月22日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数B6判・261ページ
  • ISBN9784904979273

   1969年1月18、19日、東大安田講堂に全共闘の学生が立てこもり、機動隊と激しい攻防戦を続けた。本書『東大闘争 50年目のメモランダム--安田講堂、裁判、そして丸山眞男まで』(ウェイツ刊)は、そのとき逮捕された元東大生、和田英二さんの回想記だ。まるで映画でも見るかのように、様々な局面がリアリティたっぷりに再現されており、一気に読めてしまう。

愛読書は『あしたのジョー』

   和田さんは66年、東大文Ⅰに入学し、68年、法学部に進んだ。それまで政治や社会の動きには全く無関心なノンポリ学生だった。ところが、6月、学内にとつぜん機動隊が導入されたことで目ざめた。大学にこんなことがあっていいのか。いきなり頭を殴られたような気がしたという。

   安田講堂前にできていたテント村に、自らテントを担いではせ参じた。そのまま法学部闘争委員会(法闘委)のメンバーになる。

   本書は「第一部 安田講堂戦記」、「第二部 丸山教授の遭難」の二部構成になっている。圧倒的に面白いのは、時折、顔を出すエピソードだ。

   まず、和田さんのノンポリぶり。法闘委の4年生から、「和田君、ドイデを読んだことある?」と聞かれるが、「いいえ」。「じゃあ、ケイテツは?」。これも「いいえ」。さらに「リューメーは読んでるよね?」と追い打ちをかけられるが、これも「いいえ」。当時の全共闘系学生の基本書とされたマルクスの「ドイツ・イデオロギー」や「経済学・哲学草稿」、吉本隆明の著作は、いずれも読んだことがなかった。

「私の愛読書は、主に『あしたのジョー』『カムイ伝』などの漫画本で、難易度を上げても『五味マージャン教室』くらいだった・・・」

成績のことになると自己肯定

   東大ではすでに68年7月5日、全共闘が結成されていた。法闘委の部屋は、占拠している安田講堂の二階にあった。そこでのちょっとした会話がまた面白い。

   あるとき、メンバーの一人が、占拠中の教養学部の事務本部で、和田さんの成績表を見たという話をした。勝手に成績表が収められているロッカーを開けて、のぞき見したということだろう。「入学のときは良かったのに、本郷進学のときは、どうもねえ」という。

   和田さんは「駒場では何かと忙しかったからね」と弁解した。そして、「入試は良かったはずだ。全国の模擬試験でも15番だったからねえ」と付け足した。すると、横で聞いていた別のメンバーが、「ほ~、和田もけっこうやるじゃないか」と感心する。そして「俺は6番だったけど」とさりげなく自分の順位を明かした。

   さらに驚くべきことが起きた。ふだんは寡黙で、自分から会話に入ることがない別のメンバーが「俺は2番だったけど」と呟いたのだ。著者は書く。

「東大生であることを自己否定せよ! そう東大闘争で叫びながら、こと成績のことになると、たちまち自己肯定的になる。東大生の悲しい"さが"であり、刷り込まれたDNAである。だから、どんな修羅場になっても、たとえ親の命日を忘れることがあっても、自分の成績だけは忘れない」

   東大闘争が全国模試で2番や6番や15番の学生たちによる闘争だったということが分かって、今どきの受験生や学生にも理解が進むに違いない。

立てこもった東大生は多かった

   和田さんの現在の肩書は「自由業」(東大闘争研究家)。ちょっと謎めいているが、安田講堂攻防戦についてはこってり書き込んでいる。特にこだわっているのは、逮捕された学生の人数だ。当初は新聞によって人数がまちまちだったが、和田さんは377人と結論づけている。

   ただし、その後、検察当局が公表した起訴者は295人。家裁送致や釈放者を合わせても368人にしかならない。9人はどこに行ったのか。和田さんの推理によれば、機動隊の催涙弾直撃などで重傷を負って入院していた学生たちだ。

   実際に東大生が何人立てこもっていたかについても詳しく調べている。当初、「東大生はわずか9人」などという報道もあった。警察側の佐々淳行氏も著書で20人と書いており、その数字が独り歩きした一面もある。これらはすべて間違いで起訴された学生のうち65人が東大生。完全黙秘した学生もいるので、固く見ても80人は超えると和田さんは推定している。法闘委では20人が逮捕された。佐々氏は、この人数を東大生全体と勘違いしたのではないかと見ている。

   女子学生も13人が立てこもっていた。東大の女子学生もいた。理系の大学院生は完全黙秘していたので「菊屋橋101号」として氏名不詳のまま起訴された。

「うちの息子は二人そろって東大」だったが・・・

   「第二部」では、東大法学部を代表する大学者、丸山眞男氏が、法学部研究室を封鎖した全共闘に対し、「ナチスもしなかった」と非難したと報じられたことの真相に迫る。本当にそう言ったのか、言わなかったのであれば、本人や周囲はなぜ反論しないのか。かなりこだわって掘り下げている。今風に言えば「ファクトチェック」。丸山氏の微妙な心理も推察されている。マスコミ関係者必読だ。特に朝日新聞と毎日新聞。

   本書は全体に、かなり柔らかい筆致で東大闘争を振り返っている。とくに、ところどころに登場するヒューマンストーリーが秀逸だ。著者に親しみを感じる。

   和田さんの兄も東大生。工学部に在籍しており、安田講堂に立てこもろうとした。著者が止めた、という話が出ている。父親の自慢は「うちの息子は二人そろって東大」だった。それが二人とも安田講堂で逮捕されたら和田家はどうなる、というわけだ。兄の「英断」が和田家の滅亡を救ったと評価する。父親はその後、「うちの息子は東大」という自慢話をしなくなったという。

   逮捕後の看守とのやりとりも面白い。「あなたを尊敬するようになった。外に出たら、是非、会いたい」と言われたそうだ。よんどころない義のためにやむなく幽囚の身となるが、そこで出会った心ある看守に尊敬される――「私の東大闘争の名場面」と書いている。もちろん、そのあとのオチもある。

   取り調べをしたM検事からは「君は、いずれ外に出るだろう。そのときは、ルールを守って、その能力を社会のために活かしてほしい」と言われた。あれから50年経つが、違反は交通切符だけだという。

   本欄では『東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬』(白順社)、『私の1968年』(閏月社)、『かつて10・8羽田闘争があった』(合同フォレスト)なども紹介している。

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