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「逮捕」「起訴」の青春 国立大名誉教授が回想

東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬

 全共闘運動の高揚から約半世紀。また新しい全共闘本が出た。大野正道・筑波大名誉教授による『東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬』だ。

 類書と異なるのは、「東大駒場」に絞り込んだこと、著者の肩書が「国立大名誉教授」であること、そしてなによりも「エリートたちの動静」が生々しく記されていることだ。

「何を思い、どう闘ったのか」

 大野氏は『中小企業法研究』『中小企業のための事業承継の法務と税務』など、中小企業の法務について多数の著作がある。本人によれば、「学士院会員」(学者としての最高の栄誉)も視野に入っているという。日本の中小企業の抱える諸問題の権威。関係の団体でもアドバイザーとして活躍し、学者として業績を残している大野氏が、いったいなぜ今ごろ「全共闘本」を出したのか。

 前書きで大野氏はこう記す。

 「私の語り得る限りの記録を残すことで、全共闘運動とは何かと言う疑問に対する、私なりの返答として書いたものです」

 「我々は東大闘争においては、駒場のクラス四三LⅠⅡ9Bを中心に行動しました。その多くの友人は今や企業や役所を退職、退官し、年金暮らしをしています」

 「日本の片田舎に育った若者たちが全共闘に集い、何を思い、どう闘ったのかを正確に、できるだけ自らを客体化し、淡々と記すことに集中しました」

 タイトルに「回転木馬」とあるように、人生の浮沈を体験し、原点に戻った今だからこそ「駒場時代」を忌憚なく語ることができる。そんな心境が執筆の動機のようだ。

「あんた、逃亡兵だね」

 1968年春、富山市の有名進学校、富山中部高校で「大野の前に大野なし」と言われた大秀才の大野氏は、現役で東大に合格する。まもなく医学部で紛争が拡大、機動隊が導入され、全学集会にはクラスの半数が参加した。そして駒場もストライキに突入、全共闘運動が始まる――「東大紛争とは何かといえば、地方の県立高校で生徒会活動なんかをやっていて東大に入った優秀で真面目な学生たちの、しかも現役かせいぜい一浪組の・・・正義感の発露だった」。

 ちょうどベトナム戦争が激しさを増していた。「ベトナム戦争に反対し、戦争反対の支援闘争に加わり、同時に学園紛争を闘う。それが日常になっていく」。

 ノンポリに近かった大野氏はやがてクラスのML派の活動家に引っ張られ、同派の学生組織「学生解放戦線」に属すようになる。そして逮捕。2度目となった69年6月のASPAC(アジア太平洋圏閣僚会議)粉砕闘争では起訴される。

 闘争で起訴までされたのはクラスで大野氏1人だけ、このまま職業的活動家になるのか、戦線から離脱するか――同9月、「もういい、やめた」と後者を選ぶ。それでもなお、大野氏に復帰を呼びかけるゲバルト・ローザ(有名な女性活動家)の最後の言葉は、「あんた、逃亡兵だね」。

「私にできることは何か」

 「我々は力及ばずして負けた。負けは負けで、一から再起を図るしかない」。本郷に進んだ大野氏は「勉強した」。大半が「優」という抜群の成績。そのまま「助手」になる資格を得たが、裁判中の身。大学院に進む「しか」選択肢がなかった。72年8月、執行猶予の判決。そしてアカデミズムの世界に36年間。「臥薪嘗胆」「社会における信用を勝ちうるために」、がんばってきたと振り返る。

 本書では当時のクラスメートの動向が、実名でポンポン出てくる。革マルの勉強会に出ていたMは三菱商事。同じくYは東京海上、のち専務。「学生解放戦線」のヘルメットをかぶっていたIは逮捕歴がなかったことが幸いして役人になり、航空局長から海保庁の長官に。Tは田舎に帰り非日共系の生協に勤める。シンパだったHは後に東大学長。無党派のKは朝日新聞常務。スト反対派のWは大蔵省に入り財務官。ただ一人の民青だったFは東大駒場の教養学部長。そのほか、のちの警視総監も。(いずれも本書内では実名)

 四三の9B組の級友で、気になる男が1人いる。大野氏を活動に引き込んだML派の活動家A氏だ。職業的活動家の道を選んだと思われるが、「今や彼の消息はわからない。生きていて欲しいと思う」。

 ハチャメチャな青春期を送った大野氏たち。「私たちにはマトモでない部分がある」と自認する。一方で、「私たちのような経験をしてきた者は折に触れ、思想や考え方が様々に違っている人の中でもなんとかそれを治めてきた」とも。そして今もなお、残りの人生で「私にできることは何か」を自問し続けている。

 

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