古代史を巡る最近のビッグニュースは、仁徳天皇陵とも呼ばれてきた大阪・堺市の大山古墳について宮内庁が堺市と協力して発掘調査を始めるという話だろう。日本中にたくさんの天皇陵古墳があるが、宮内庁が地元自治体と共同で発掘調査するのは初めてのことだという。
本書『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書)はこのニュースに合わせて刊行された形になった。そもそもは朝日新聞の奈良版で2016年4月から18年3月にかけて連載され、それをもとにタイムリーに単行本にまとめたものだ。
著者の今尾文昭さんは考古学者。奈良県立橿原考古学研究所を経て現在は関西大学非常勤講師。天皇陵古墳研究の第一人者として知られる。
宮内庁は長年天皇陵への立ち入り調査を拒んできた。しかし、考古学や歴史学関係の研究団体の粘り強い要望を受け、08年から内部規則を変更し、一部について一定の対応をするようになった。今尾さんはそれ以来、有名な箸墓古墳など10カ所余りの天皇陵古墳を間近に見てきた。実際には、宮内庁職員の先導で、天皇陵の一定区域に限って歩きながら観察する、という程度のことのようだが、それでも専門家にとっては得るところがあるらしい。
宮内庁のホームページによると、天皇陵は全国に124あるそうだ。本書によれば、奈良・大阪に点在する大型前方後円墳のうち約80基が天皇などの陵墓。それらには考古学の立場からすると、いくつかの問題がある。最大のものは、学術上で考えられる被葬者と異なるケースがあることだ。原則非公開なので調査に制約があることも大きい。
そうした矛盾はユネスコへの世界遺産登録でも露呈していると著者は指摘する。たとえば「大山古墳」は「仁徳天皇陵古墳」という名前で登録されようとしている。それは「これまで使われたことのない名称」だという。
この名称だと、学術上の検討を経て、仁徳天皇の陵墓だと確定したと誤解されてしまう。明治天皇の裁可で決まったとされる現在の陵墓は、今日の歴史学や考古学の成果を反映していない。「150年前から時が止まったまま21世紀を迎えている」と警告する。
本書は「箸墓古墳」の見学体験からスタートする。奈良県桜井市にある巨大古墳だ。墳長280メートル、奈良盆地で最初に作られた大型古墳と言われる。卑弥呼の墓という説もある有名な古墳だ。宮内庁は第七代孝霊天皇の皇女の墓として管理している。
2013年2月20日、著者は念願の箸墓古墳に足を踏み入れた。学会代表として選ばれた16人の1人。墳丘上部を見上げると、階段状に形づくられた段築が見えた。前方部側面から見ると段築がなく、かつては一気に築かれたとみられていたが、そうではないことがわかる。さらに後円部に移るところ、くびれ部では、靴底にはっきりと丸い石を踏んでいる感覚があった。築かれたころは、墳丘全体が石塚のようだったと推測できる。「想像力がかきたてられた一日となった」と記している。
「大山古墳」についても記されている。国内には15万とも20万ともいわれる古墳があるが、その中で最大。墳長486メートル。大林組の試算だと、一日2000人が働いて15年余りかかるという。こちらはこれからの調査に期待がかかる。
本書には個々の天皇陵古墳の全景写真のほか、地図、参考文献も掲載され、索引も充実している。古代と現在が地続きになっている関西地区と、ほとんどつながらない東京などとの違いがよくわかる。古代史ファンにとっては、たまらない一冊だ。
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