読むべき本、見逃していない?

石原莞爾の「墓守」は軍歌を流す街宣車を追い払った

  • 書名 「右翼」の戦後史
  • 監修・編集・著者名安田 浩一 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年7月19日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書・ 278ページ
  • ISBN9784062884297

 大手書店ではベストセラーに入っているところもあるが、不思議なことに新聞書評ではまだあまり取り上げられていないようだ。ジャーナリスト安田浩一さんの『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)。タイトルにあるように、右翼運動の流れを丹念にたどったものだ。

 同じジャンルを扱った先行書では、『戦後の右翼勢力』(堀幸雄著、勁草書房、1993年)が有名だ。しかし80年代までの記述で終わっている。本書は戦前から、最近の動きも含めて論じており、何かと「右傾化」が指摘される安倍政権との関連でも、示唆に富んだ内容となっている。

意外なエピソードや意見

 安田さんは1964 年生まれ。週刊誌記者を経てフリーに。ヘイトスピーチの問題について警鐘を鳴らした『ネットと愛国』(講談社)で2012 年の講談社ノンフィクション賞を受賞。そのほか『ヘイトスピーチ』(文春新書)、『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)など硬派の著作が多い。ノンフィクションの世界で骨太のライターが減る中では、貴重な一人であり、戦前、戦後の右翼から現代のネトウヨ、さらには安倍政権を支える「日本会議」までをも通して分析するという意味では最適任者といえるだろう。

 本書は「序章 前史 日本右翼の源流」「第一章 消えゆく戦前右翼」「第二章 反米から『親米・反共』へ」「第三章 政治・暴力組織との融合」「第四章 新右翼の誕生」「第五章 宗教右翼の台頭と日本会議の躍進」「第六章 ネット右翼の跋扈」に分かれている。この目次の流れを見るだけでも、日本の右翼のヒストリーが一望できる。

 登場する過去の事件や人物は、ある程度知られている。したがって本書でもそのあたりは復習の感が強いが、著者は可能な限り再取材をこころがけている。かなり以前から、「最後の生き残り」のような人物や、周辺の関係者に接触を続けていることが分かる。そこから浮かび上がる意外なエピソードなどが本書の興味深いところとなっている。

肌合いの違う右翼の話が頻繁に登場

 たとえば石原莞爾。満州事変や満州国建国を画策した関東軍参謀だが、日中戦争の拡大には反対した。戦前の右翼団体「東亜連盟」の指導者でもあったが、東條英機と対立し、予備役に追いやられる。戦後は山形県で自給自足の農村共同体づくりを試みたが、1949(昭和24)年死去。

 安田さんは石原の側近で、2012年に亡くなった武田邦太郎氏に何度か会っている。山形にある石原の墓の「墓守」を任じ、遺志をついで新しい右翼団体「協和党」を立ち上げたりしていた。山形は石原の聖地ということでたまに、街宣車が来て気勢を上げることがあった。

 武田氏は、「不快でしかたがない。軍歌を流した街宣車が来たときは追い払ったこともあった」と安田さんに語っていた。「東亜諸民族の団結と協力で世界平和をめざす」というのが石原の持論。「街宣車」の主張は、石原の理念とは異なるというわけだ。

 1961年に起きた「三無事件」の関係者も登場する。戦後の右翼によるクーデター未遂事件として知られる。そのメンバーに名をつらね2015年に亡くなった古賀良洋氏は、後に福岡県内でお寺の住職を務めていた。戦時中に地元の炭坑労働で命を落とした朝鮮人労働者の供養に奔走し、地元のコリアンの信望が篤かったという。「異国の地で亡くなった朝鮮人の無念を思うと、日本人としての責任を感じる」と生前、安田さんに語っていた。

 こうしたやや肌合いの違う右翼の話が、本書では割と頻繁に登場する。同じく右翼と言っても一枚岩ではないことが分かる。

共謀罪「歓迎」に唖然

 近年の右翼の特徴は、保守の一部が「ネトウヨ」化していることだ。ネットで隣国や国内マスメディアへの罵倒をくり返し、安倍首相を賛美していた「宇予くん」。本書によれば、これは日本青年会議所(JC)憲法改正推進委員会が作ったキャラクターだったことがバレて、アカウントを消した。神社の宮司が外国人を「ウジ、ゴキブリ」とブログに書き込み、問題になったことがあるが、この宮司の著書には安倍首相が推薦の言葉を寄せていた。

 日本初の右翼団体と言われるのは1881年結成の玄洋社。「大アジア主義」を掲げ、その海外部門を担当する黒龍会は中国では孫文の辛亥革命を支援した。安田さんは「近隣国との対立を煽るだけの現代の一部右翼とは大きく違っている・・・ネット右翼のように『嫌韓』『嫌中』といった意識で、アジア各国の文化までも否定、排斥するようなことはなかった」と原点を立ち返る。

 安田さんは、首相を支える「日本会議」を「背広を着た右翼」と見るが、安田さんの取材申し込みに日本会議は応じない。

 本書の指摘で興味深かったのは「共謀罪」に関するくだりだ。戦前の治安維持法では左派だけでなく、国家体制に批判的な一部の右翼も対象になった。ところが共謀罪が成立したとき、ネットでは「愛国者」を自称する人たちが一斉に「歓迎」の書き込みをした。安田さんは「唖然とするしかなかった。国家という存在は強権を持ちえたとき、左右の区別なく気に入らないものを排除していくという歴史の教訓を知らないのだ」と書いている。

 多様な右翼を紹介している本書は、右翼だけでなく左翼も、どちらでもない人が読んでも発見があるのではないか。特にマスコミ関係者は必読だろう。BOOKウォッチでは、間接的に右翼に言及した本として『記者襲撃――赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)も紹介済みだ。

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