2001年に出版された『日本文学盛衰史』は、石川啄木、夏目漱石ら明治の文学者の創作の苦悩と平成の風俗、さらに著者高橋源一郎の私生活や手術などが渾然一体となった何でもありの「怪作」だった。第13回伊藤整文学賞を受賞したのは、文庫派の代表的詩人、伊良子清白と横瀬夜雨ら詩人にかんする記述も多く、詩人として出発した作家、伊藤整の名にふさわしいという判断によるものだろう。
本書『今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇』(講談社)は、『日本文学盛衰史』の続篇と見ることもできるが、相当につくりが異なっている。前作は複数の人物が主人公のオムニバスの構成だったが、本書の視点は著者タカハシさんに貫かれている。大学で文学を講ずるタカハシさんは、文学を専攻する大学院生らが夏目漱石や村上春樹は読んだことがあるものの、武田泰淳、野間宏、島尾敏雄、埴谷雄高ら戦後を代表する文学者を知らないことに衝撃を受ける。そして文学はもう必要とされていないのでは、と懐疑する。
そんな著者が衝撃を受けたのが、ロックミュージシャン内田裕也が1991年、東京都知事選に立候補した際の政見放送だった。内田は英語でエルビス・プレスリーの「Are You Lonesome Tonight?(今夜はひとりかい?)」を歌い始めた(タイトルはここから)。何が起きたかわからなかったが、「ここに文学がある」と思った。
前作が書かれたのは、前世紀末だったから、小道具としてはBBSの書き込みやチャットが使われた。今回はツイッターだ。ある高齢者の「いちばん好きなのは、石坂洋次郎なんだ、ほんとは」というつぶやきに反応し、代表作の『光る海』や『青い山脈』にツッコミを入れながら徹底分析する。パンク、ラップ、ブログなどの「意匠」も借りながら、「戦後文学」とは何だったかを考察していたのだが......。2011年3月11日を迎え、「タカハシさん、『戦災』に遭う」の章以降、なにかが「ずれた」ような気がして、「ことば」を発しなくなった、と書いている。
前作では日本文学の勃興期をテーマに、なんだかわからない猥雑でエネルギッシュな記述の中にその本質をとらえた。「文学」は所与の前提だった。しかし、本書は「文学なんてもうありませんよ」というところから始まっている。前作の熱気を期待して評者は読み始めたが、あれから18年、あいだに東日本大震災をはさみ、もはや「戦後文学」の検証などを通り越し、とんでもない地点に我々は来たのかもしれない。
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