皮革業従事者、井戸掘り職人、中世の芸妓「白拍子」など芸能に従事する人々、近代・明治期まで存在したといわれる「サンカ」と呼ばれる流浪の人々・・・、彼らは何故差別を受けるようになったのか。教科書では語られることの少ない「被差別民」を学術的に解き明かす。
鎌倉時代、武士の間に流行した「犬追物(いぬおうもの)」には、「河原ノ者」とよばれる人々が不可欠であった。
仏教や陰陽道から派生した様々な禁忌は、ふつうの人々の生活を縛ってしまうが、禁忌を犯すことのできる「エタ」や「非人」といった被差別集団は、他の人ができない特別な仕事をこなす職能集団へと変性していく。
社会の重要な役割を担いながらも、差別に耐え、誇りを持って生きてきた人びとが日本にはいた。
中世の差別は硬直的なものではなかった。本書の第2部では豊臣秀吉の生涯について語られるが、様々な文献を精査すると、秀吉は高い確率で「非人」に身分を落していることが分かる。しかし、実力があれば「脱賤」が可能であり、彼は位人臣を極め歴史に名を残す。
差別の問題は、秀吉の時代から400年以上経った今なお残っている。本書は、差別を助長するものでは決してない。差別の存在を見つめなおし、「個」の尊厳を讃えるものである。
2012年11月3日、毎日出版文化賞を受賞。
署名:河原ノ者・非人・秀吉
著者:服部英雄
発売日:2012年4月
定価:2940円(税込)