映画と天皇
映画祭「映画と天皇」が話題になっている。主催したのは日本大学芸術学部映画学科の学生たちだ。東京・渋谷のユーロスペースで2017年12月15日まで開催されている。
そのパンフレットが本書だが、これがまたおどろくほどよくできている。とても大学3年生が作ったとは思えない。
ちょうど天皇退位の動きと重なったこともあり、映画祭のことは朝日、毎日、読売、日経、東京など各紙が社会面や都内版トップ級で伝えた。大学生の主催した文化的な活動がこれほど大々的にマスコミをにぎわしたのは初めてではないか。実際、作品によっては立ち見も出る盛況だという。
上映されているのは戦前の「戦ふ兵隊」(1939年、亀井文夫監督)から戦後の「日本の悲劇」(46年、亀井監督)、「日本敗れず」(54年、阿部豊監督)、さらには「日本春歌考」(67年、大島渚監督)や「軍旗はためく下に」(72年、深作欣二監督)、定番の「ゆきゆきて、神軍」(87年、原一男監督)、最近の「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(12年、若松孝二監督)など17作品(うち3作品は短編)。有名なソクーロフ監督の「太陽」(05年)など海外作品も含まれている。過去に上映禁止になった作品や、今ではDVDでも見られない作品も含まれている。
パンフレットでは、まず映画評論家の佐藤忠男さんが戦前、戦後の「天皇の描き方」について、さらに村山匡一郎さんが「映画における天皇」について詳述している。とりわけ佐藤さんの寄稿には、映画を見ただけでは分からないベテランの薀蓄が披露されており、勉強になる。明治から平成までの天皇像の変遷については、日大の看板教授の一人で、近現代の天皇制について詳しい古川隆久さんが手際よくまとめている。コラムニスト中野翠さんのエッセイもある。
圧巻は、元侍従長で宮内庁参与の渡辺允さんへのロングインタビューだ。96年から2007年まで約11年に及ぶ侍従長時代は、天皇の一番近くにいた人。現在は参与を務め、月に1,2回は両陛下に会っている。マスコミ各社も是非ともインタビューを取りたい重要人物だ。6ページにわたる内容はなかなか読みごたえがある。かなりざっくばらんに話しており、大手新聞でも、1ページをつぶして紹介できる内容だろう。
それぞれの作品解説は学生が書いている。いずれも要を得た紹介文だ。映画祭主催者代表の山本麻都香さんの、なぜこの映画祭を企画したかという一文も興味深い。本書は44ページの薄いものだが、ビッグネームによる寄稿やインタビューの充実ぶりは「学生パンフ」のレベルをはるかに超えている。今後、同種の企画が催されるときは、簡便な底本として利用されることになりそうだ。
映画学科の学生たちによる「映画祭」は11年から毎年開かれ、今年で7回目だという。初回は「1968年」を特集し、昨年は「宗教」に取り組んで入場者は2000人を超えたそうだ。
日本と米国の映画力の最大の違いは、映画界を支える大学の力量差だといわれることがある。多数の大学に映画学科がある米国に対し、日本ではわずか。その中の代表格が伝統の日大だが、いまも地道に努力し、力を付けている学生がいることが、この小冊子でも分かる。残部希少だが、会場のユーロスペースで取り扱っている。
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