戦前、中国・上海は「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇り、これまで多くの文学作品が上海を舞台に書かれてきた。本作は小松左京賞、日本SF大賞を受賞した上田早夕里さんが、かつて日本軍が研究した細菌兵器にインスパイアされて書いた歴史SF小説である。
上海自然科学研究所で細菌の研究をする宮本敏明は、日本総領事館に呼び出され、「キング」と暗号名で呼ばれる治療法が皆無の細菌兵器の存在を明かされる。それはバクテリアを食うバクテリアから作られた変種で、日本人研究者、真須木一郎が開発したものだった。
真須木はある狙いを持って、論文を5つに分割し、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、日本の大使館、領事館に送っていた。彼の意図は何だったのか? 果たして宮本は治療法を見出すことができるのか。
本書はいわゆる731部隊、石井四郎陸軍軍医中将が率いた関東軍防疫給水部本部における細菌兵器の研究を参考にしている。それを元にSF的想像力で架空の細菌を作り出した。科学者の良心とは何かという骨太の問題意識に貫かれている。
「キング」のモデルとなったビブリオ菌は、現実に1962年にドイツの科学者によって土壌から発見されているという。「バクテリアを食うバクテリア」として世界で初めて確認されたが、毒性はないそうだ。「補注」の説明を読んで、ほっとした。
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