医師はきっと、<拠りどころ>と言ったのだと、今では思っています。けれど、今となってはそんなことは全然問題ではありません。ユリゴコロは私のなかに、私だけの言葉として、根を下ろしてしまったのですから――
恋人の失踪、父の末期がん、母の突然の事故死と、亮介に次々と不幸が襲いかかる。亮介は、自分のまわりに陰湿な罠が張りめぐらされているように思えてならなかった。
ある日父の書斎で偶然見つけた、「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。それは殺人に憑りつかれた人物の、読む者を震撼させる告白文だった。亮介は20年以上前、自分が長期入院し、ようやく家に帰った時、母が別人に入れ替わったように感じたことを思い出した。告白文は創作なのか、または父か、亡くなった母か、定かではないが入れ替わる前の母が、自らの過去を綴ったものなのか。亮介は家族に疑念を抱きながら、一家の真相を追う。
序盤の告白文に、背筋が凍る。覚悟して読み始める必要がある。一家の真相が徐々に明らかになる過程で、絶望の淵から救いの光が見えてくる。そして最後、驚くべき真実を目の当たりにする。告白文は、殺人による恐怖の連鎖が淡々と綴られているが、ある時アナタと出会い、戸惑いながらも徐々に人間の持つ感情を知っていく、罪人の心の変化が描かれている。
著者の沼田まほかるは、主婦、僧侶、会社経営などを経て、56歳だった2004年に『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞。10年『痺れる』が「本の雑誌」上半期ベスト第2位、『猫鳴り』が「おすすめ文庫王国2010-2011」(「本の雑誌」増刊)エンターテインメント部門第1位に選ばれる。12年『ユリゴコロ』で第14回大藪春彦賞を受賞し、本屋大賞にノミネートされた。『ユリゴコロ』が刊行された後、既刊作品も売り上げを大きく伸ばした。本書は、11年3月に刊行された単行本を文庫化したもの。
今年8月にコミカライズ(作画・亜月亮 原作・沼田まほかる)され、上下巻で刊行された。9月には映画(監督・脚本 熊澤尚人 美紗子役・吉高由里子 亮介役・松坂桃李 亮介の父・松山ケンイチ)が公開された。映画を観て著者の沼田まほかるは、流血シーンのある映画で緊張したとしながらも、「この映画はきっと映像の美しさが勝っているせいでしょう、そんなことは忘れて没頭することができました」とコメントしている。
人間の罪業と愛情という両極端にあるものを、ありありと描いた『ユリゴコロ』は、間違いなく触れた者の記憶に残るだろう。
(BOOKウォッチ編集部 YT)
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