将棋で中学生の藤井聡太四段が話題だが、囲碁の世界でも昔から「天才少年」は多い。名人になった趙治勲さんや依田紀基さん、井山裕太さんなどの名が浮かぶ。
最近、井山さんの大活躍と国民栄誉賞が注目される一方で、依田さんの名前を余り見かけないと思ったら、とんでもないことになっていた。その顛末を自らつづったのが本書『どん底名人』(株式会社KADOKAWA)だ。
囲碁や将棋の名手は子供のころに頭角を現す。1966年生まれの依田さんもその一人。小学校5年生の時に北海道の岩見沢市から単身上京、有名棋士の内弟子になり、中学3年でプロデビュー。いきなり11連勝し、稀にみる有望新人として脚光を浴びた。
17歳5カ月で新人王戦に優勝。一流棋士への階段を上り始める。その後、名人4期、碁聖6期、NHK杯優勝5回など90年代後半から2000年代初頭にかけて圧倒的な強さで囲碁界に君臨した。近年の囲碁名人を振り返れば、絶対王者だった小林光一、趙治勲を継ぐ存在だった。
そんな依田さんだが、このところタイトル戦からすっかりご無沙汰。どうしているのかと思ったら、この本である。タイトルに「どん底」がついている。単に棋士として低迷しているというだけではない。私生活も含めた人生全般において「どん底」だというのである。帯にも「囲碁界最後の無頼派」、「頂点を極め、そして破滅」と尋常ならざるキャッチが記され、「私はこの本を遺書のつもりで執筆した」と、本人が宣言している。
なぜ、依田さんは「破滅」したか。18歳で歌舞伎町に入りびたり、一時は同時に8人の女性と「付き合って」いた。賭けマージャン、バカラ地獄、ファミコンにハマり、「三國志Ⅱ」漬けの日々。結婚、破たん、そして現在の孤独。
かねて破天荒な人だといううわさは聞いていたが、そうした恥の行状をそっくり白状している。本書では中学時代の「オール1」だった通信簿まで公開する大サービス。アルファベットも書けなかった少年が、なぜ囲碁の頂点を極めることができたか。それは、自分には「劣等生」と言う強いコンプレックスがあり、囲碁が強くならなければどうにもならないという「虚仮の一念」で踏ん張った結果だという。
事情があって、3人の子供たちとは離れて暮らしているようだ。「今がどん底ならこれからは上昇するしかない」「必ずや乗り越えて、目いっぱいの人生を生きて行きたいと思ってる」と前を向く。
天才少年の余りに劇的な有為転変人生。念のため藤井四段をはじめとする将棋や囲碁の神童たちも、そのうち読んでおいた方がよさそうだ。「オール1」でも「天才」になり得るということでは、劣等生や、鈍才児を持つ親にも励みになる。
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