日本各地のロードサイドに大型商業施設が建設され、その土地固有の歴史・自然・風土が顧みられなくなる。ファストフードのように均質化することを、社会デザイン研究者の三浦展(あつし)さんが「ファスト風土」と揶揄し、『ファスト風土化する日本 郊外化とその病理』(洋泉社新書 y)を出したのが2004年のことだ。
それから20年近くが経ち、もはやファスト風土は日本の隅々まで浸透した。本書『再考ファスト風土化する日本』は、三浦さんをはじめ、小説家、建築家、研究者ら13人が、変貌する地方と郊外について論じた本である。
三浦さんが前著で挙げたファスト風土化の問題点は、均質化による地域固有の文化の喪失、環境・エネルギーへの負荷、繰り返される破壊による街の使い捨てなど8点だった。
そして今、さらに「われわれには、ファスト風土ではない社会で生きる権利がある」など補足している。
「第Ⅰ部 考察編」には、「ファスト風土論再読」という観点からさまざまな論考を集めている。
たとえば、小説家・山内マリコさんの「地元に残れなかった者の、地元愛」は、富山市の変貌を論じている。「どこかつるりと真新しく、どこへも遡れないような空虚さがあった」ふるさと富山市。2012年のデビュー作『ここは退屈迎えに来て』では、富山という地名はいっさい出さず、「ただ淡々とチェーン店の固有名詞を並べさえすれば、日本全国にあるそのような街に暮らす人たちが、これは自分の物語だと思うだろうと信じて書いた」。
それから10年以上が経った。郊外化した地方都市としてすでに「二周目」に入り、イオン、コストコ、三井アウトレットパークなど、「子連れに最適化されたショッピングモールは生活に欠かすことのできない、ありがたい存在以外のなにものでもない」と愛着を表している。
続く、「ファスト風土暮らしの若者論」で轡田(くつわだ)竜蔵さん(同志社大学社会学部准教授)は、「若者、そして団塊ジュニア以降の子育て世代にとって、ファスト風土は好きとか嫌いという問題以前に、国土全体に広がったインフラと考えられているという出発点を確認する必要がある」と書いている。
ファスト風土をインフラとして活用し、その外側で豊かな消費やコニュニティを楽しむという「いい所取り」が消費の「正解」であり、「ちょうどいい」という感覚なのだという。
「8ミリフィルムが捉えた秋田とファスト風土」と題した、石山友美さん(秋田公立美術大学准教授)の論考も興味深い。ホームムービーの収集活動から、ロングショットが減り、クローズアップが増えたことを指摘している。遠景を我々は必要としなくなったことで、「ファスト風土だけが残っている」のだ。
「風景のリミックス 新海誠とポスト郊外の想像力」において、畠山宗明さん(聖学院大学准教授)は、新海作品には、旧来の郊外もファスト風土化した風景もほとんど現れないと指摘。さまざまな風景をリミックス(再編成)して、郊外の景観の全国版をつくり上げているという。
「第Ⅱ部 実践編」では、脱・ファスト風土な世界をつくる取り組みを紹介している。
大宮駅周辺の歩道空間に古着屋の出店を展開する試み、ローカルフードで地方創生をする動きなどを取り上げる論考が並ぶ。
さらに三浦さんは、地方振興の具体的な方策として、地方都市の中の歓楽街を新しい形で娯楽地区として甦らせることが最重要だと提案している。福井市で女性が経営する女性も楽しめるバーを紹介している。舞台があり、現代的なパフォーマンスを演じることもある。
「第Ⅲ部 第五の消費のまちづくり」では、ふたたび三浦さんが、脱ファスト風土化の新動向について論じている。
ファスト風土化批判の一環として巨大ショッピングモールを批判すると、ショッピングモール好きの人から「ショッピングモールがなければ寂れた古くさい商店街しかなかったのだ」という反・批判が寄せられることに対し、「ショッピングモールがなければ中心市街地を活性化する方策がもっと早く考えられた」と切り返している。
最後に、ますます人々は「スローslow」「スモールsmall」「ソフトsoft」「ソーシャブルsociable」「サスティナブルsustainable」な生活を求めるだろう、と予測している。つまり、5つの「s」に注目している。
著者の三浦展さんは、1958年新潟県生まれ。一橋大学社会学部卒。パルコ入社。マーケティング情報誌「アクロス」編集長。三菱総合研究所を経て、カルチャースタディーズ研究所を設立。著書に『下流社会』『脱ファスト風土宣言』など。
必ずしも反「ファスト風土」で統一されたわけではない構成を評価したい。世代や地域によってファスト風土の捉え方はさまざまであることが分かった。全国の街づくり関係者に一読を勧めたい。
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