『100万円で家を買い、週3日働く』。なんてキャッチ―なタイトルだと思い、本書を手にした。著者の三浦展さんは、『下流社会』『第四の消費』などのベストセラーで知られる社会デザイン研究者。最近の若い世代の動向から取材したレポート集である。紹介された事例には「再・生活化」という共通点があるという。
まずは、タイトルにもなった「100万円で東京郊外に家を買い、週3日働く」事例は、神奈川県横須賀市に住む女性。リノベーション会社に勤めていたので、築70年の家を100万円で買い、自分で安くリノベーションした。勤務は会社がつくった横浜のカフェで週3日、残りは横須賀の家で過ごしているという。その後、結婚し、今度は静岡県沼津市への移住を計画している。
このほかにも、長崎県の離島で家賃1万円で豊かに暮らすシングルマザー、福岡県の糸島で狩猟生活をしながら毎月の食費1500円で暮らす女性らを紹介している。住まいは自分でリノベーションする、お金をできるだけ使わない点が共通している。
本書が示すもう一つの柱が「昭和の官能」「郊外の夜の娯楽」を求めるという傾向だ。遊郭とストリップにはまるアラサー女子、スナックのママをしたがる平成女子、全国の花街を集める大イベントを開いたアラフォー芸妓、多摩ニュータウンの自宅兼事務所をスナックにした若い建築家グループ、埼玉のニュータウンの空き家に住み、流しと屋台で歌う東京藝大OGらが取り上げられている。
東京・吉原のソープ街に2016年に開店したカストリ書房でも客の多くは20~30代の女性だという。若い女性が遊郭に惹かれる背景として「何かどろどろしたものを求める気分が女性たちにある気がします」「貧困とか不況とか少子化というものも絡んでいるだろうと思う」という店主の渡辺豪さんの話を紹介している。
本欄でも『遊廓に泊まる』、『江戸・東京色街入門』など遊郭関連本を取り上げるとPVが伸びる傾向がある。
本書に見られる、自然に囲まれた地方や郊外に住み、のびのびと生きるというベクトルとわいざつで官能性を求めるベクトルは、まったく異なるもののように思える。しかし、三浦さんは「再・生活化」というキーワードでくくる。お金をかけずに、豊かで幸せな生活を実践するという点で両者は共通する。それを三浦さんはこう定義する。
「再・生活化」とは、高度経済成長期以前の日本人の一般的な暮らし、生活を、もう一度見直し、再評価し、部分的にであってもそれを現代の生活に取り入れようとする動きである。
先日本欄で紹介した『情報生産者になる』で、著者の上野千鶴子さんは、雑誌「アクロス」編集長時代以来の三浦さんのデータの扱いを賞賛していた。定量的な分析もさることながら、数少ないデータやインタビューから本質をつかむ定性分析にも優れている。
本書に紹介されているのは、いまのところ先進的、あるいはとっぴな事例かもしれない。だから本にもなる。それでも、若い世代の消費や生活の方向性を強く指し示していると思う。女性の事例が多いのも「そもそも女性のほうが今はリアルを強く求めて行動しているからではないかと思われる」からだそうだ。
本欄では、三浦さんの『東京郊外の生存競争が始まった!』を取り上げている。
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