読むべき本、見逃していない?

「おしょうゆ」と同じつもりの「おソース」はNG

日本語の作法

 きちんとした話し方や書き方を身に付けたいと考えている人は多いようで、インターネットで検索すると、そのための講座や教室が各地に設けられている。話し方、書き方を身に付けたいと思うのは、発信する相手があってのこと。文章術を説く最新刊『日本語の作法』(青土社)は、そのことをまず前提として、ひらがなと漢字の使い分けや句読点の打ち方の基礎から、構成や余情の味わいの醸し方までを収めており、事典としても活用できる一冊。

「下阪」「上京」を避けるべきケース...

 読み手のことを考えない発信は、伝えたいことが伝わらない逆効果にさえなる。「たとえば、東京の人間に『下阪』と書かれたら、きっと大阪の人間はいい気持ちがしないことだろう」。そして著者の教え子の京都出身の女性が、東京へ行くという意味で「上京」という表現を使わなかったエピソードを添える。「御出産おめでとうございます」という市役所からの子ども誕生の祝いで、宛名が新生児だった例もあるとか。

 読み手ファーストを訴えたあとに続く本編は「基礎編」と「応用編」の2部構成。「基礎編」は「1ひらがな・漢字・カタカナを使いこなす」「2漢字を正確に使い分ける」から「7コロケーションをなめらかに」「8慣用句・諺をしっくりと」「9修飾は効率よく」と続く。そして「応用編」で、省略や反復、比喩などのテクニックが紹介される。

 著者の中村明さんは、1935年生まれの国語学者。国立国語研究所室長、日本文体論学会代表理事、母校の早稲田大学教授などを経て、同大名誉教授。日本語の表現や文体などについて数多くの著作があり、数々の国語辞典、表現辞典で編集委員、編集主幹を務めた。

 本書のような書物を手にするときは、何か秘訣はないものかと探るものだが、著者は「秘訣に類するものが、あるいはあるのかもしれない。だが、そんな魔法めいたものは信じないほうが、きっと進歩は早い」ときっぱり。だからこそ「ひらがな・漢字・カタカナを使いこなす」ことから説き起こす。先生についていきますという気にはなる。

行間に反映する「敬語」

 「基本編」19項目のほとんどは「~使いこなす」「~使い分ける」あるいは「ことばをしぼる」「最適の一語を探る」など、指導的なよびかけなのだが「敬語表現にその人が映る」と、この項目だけ客観的な見方を示した感じで趣を異にする。文章の個性は「敬語」で発揮する―のように理解できなくはないが、そうしたことも含めて「敬語」が最も行間に反映されるかららしい。

 「大声を出し、早口でまくしたてるのはたしなみがなく、どんな敬意表現もそれだけで値打ちが下がる。同様に、いかなる丁重な書簡も、なぐり書きにしては台無しになる。一つ一つの行為を通じて人柄が問われているのだ」

 集まりの出欠を問う往復はがき。宛名の「行」は返信側が「様」や「殿」「御中」などに換えるのが慣用だ。それが「近年は、当人が自分の名にあらかじめ『様』をつけておく例も目立ってきた」と著者。「相手が書き直す手間を省く親切なのだろうが、非常識に見える」とばっさり。もっとも、相手側は「行」のまま投函する例が増えてきて、それに腹を立てることのないようにしているのかもしれないと理解も示している。

 往復はがきをめぐる欠礼は、著者の調べによると、集まりに対する熱意のなさが反映している可能性が高い。「言語行動は単なる知識ではなく、その人間の態度や性格の違いまでもが浮き彫りになると考えざるを得ず、油断がならない。敬意表現が心の問題であったという原点を見失わない行動が必要だと痛感した」と述べている。

 「敬語」の項ではほかに、謙譲表現と尊敬の表現がごっちゃになった誤用、過剰になって逆に不快感を与える例などを紹介。外来語をはじめ語彙により「お」を「つけない暗黙の諒解」があったのに、それが破られ「おソース」「おビール」などが横行していることを指摘。「そのうち幼稚園の運動会で『お用意!ドン』で走り出す時代が到来することが懸念される」との嘆きもみせた。

 先ごろ発表された文化庁の2017年度「国語に関する世論調査」によると、慣用句のなかで「なし崩し」や「げきを飛ばす」の本来の意味を理解している人が2割程度にとどまり、6割を超える人が本来とは異なる意味で捉えていた。本書では「たしなみとして文章表現を身につけるのは、よき理解者となるはずの読み手に対する礼儀であり、その労に報いるためのせめてものいたわりでもある」と、著者がげきを飛ばしている。

  • 書名 日本語の作法
  • サブタイトルしなやかな文章術
  • 監修・編集・著者名中村 明 著
  • 出版社名青土社
  • 出版年月日2018年9月19日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数B6判・305ページ
  • ISBN9784791771028

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?