コロナ禍で普段は見えにくかったことが、可視化されつつある。その一つが「格差」だ。本書『コロナが加速する格差消費――分断される階層の真実』(朝日新書)は「消費」という視点からコロナの生み出す「格差」を分析する。
著者の三浦展さんは1958年生まれ。長くマーケティング誌「アクロス」編集長などを務め、消費社会研究の専門家として知られる。2005年に出した『下流社会』は大ベストセラーになった。日本は「一億総中流」などと言われてきたが、実際には階層分化が進み、新たな階層として「下流」が生まれていることを鋭く指摘したものだった。本書も、そうした問題意識と分析の延長線上にある。「分断される階層の真実」という副題が付いている。
全体は以下の構成。
[序 章] ポスト・コロナ時代の格差と消費 ――何が問題で、どう変わるのか [第1章] 上・中・下流の条件 ――氷河期世代の階層と消費 [第2章] 「さとり」は嘘。金と地位の上昇を希望 ――平成世代・氷河期世代・バブル世代の比較 [第3章] 余暇、美容・健康、情報の格差 ――平成世代の階層と消費 [第4章] ケア消費の拡大 ――単身世帯消費・平成20年間の変化 [あとがきにかえて] 予測と提言 ――消費と都市の観点から
この章立てを見ても分かるように、コロナ禍のみを扱ったものではない。どうやらコロナ禍の前から準備していた著作に、さらにコロナ禍をかぶせたもののようだ。
そのあたりの事情は冒頭で説明している。本書はもともと現在の20代の若者について書く予定だった。同じ20代と言っても、実は階層の違いによって意識や行動、とくに消費行動は大きく異なる。その分析を主眼としていた。
ところがコロナ禍が襲いかかってきた。実際のところ、その影響は一様ではない。対面商売は売り上げの急減などで大苦境に陥っているが、テレワークの採用で通勤ラッシュにもまれることがなくなり、かえって楽になっている人もいる。非正規労働者は雇用が打ち切られ、生活苦に直面しているが、大手企業の正社員や公務員の地位は安定している。なんとなく横並びと思っていた世間の人たちの間に、実は大きな格差があったことを可視化しているのがコロナ禍だ。
BOOKウォッチでは関連して、『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)を「新宿『夜の街』でコロナ感染が止まらない訳」という見出しで紹介した。「夜の店」を閉めてしまうと収入が断たれる人は少なくない。コロナ禍を「巣ごもり」でしのげる人もいれば、「自粛」が無収入、借金苦に直結する人もいる。コロナがいつ終焉するか見通しが立たないだけに、その「格差」は簡単には埋まりそうもない。
三浦さんも打撃を受けている一人だ。文筆業だが、印税だけでは食えない。大きな収入源になっていたのは講演だった。それがほとんどすべてキャンセル。日本人は(あるいは世界中の人々が)下記のように区分けされていることが可視化されてきたというのだ。
1. 何があっても安心して中流でいられる人 2. 雇用は守られるが売り上げ・収入が落ちて不安な人 3. 一気に中流から落ちて(そもそも中流ではなくて)ものすごく不安な人
こうした中で、不滅の中流になっているのが公務員だ。圧倒的に中流以上だという。とりわけ公務員同士の夫婦は9割が「中の中以上」であり、「上級国民」だとみなす傾向があるのも当然としている。
コロナが可視化した最たるものは正規雇用と非正規雇用・自営業の大格差だ。
2020年9月1日の日経新聞の夕刊はトップ記事で、有効求人倍率が1.08倍にまで落ち込み、6年3か月ぶりの低水準だと報じていた。1月には約1.5倍だったからあまりに激しい急減ぶりだ。地区別でいうと、東京は7年2か月ぶりに1倍を割り込んだそうだ。
非正規労働者は前年同月に比べて全国で131万人減。完全失業率は前年同月比で0.1ポイント悪化して2.9%。安倍政権が成果としてきた雇用の創出は、非正規労働者の拡大だったわけだが、激減中だ。求人倍率が下がっているから、次の仕事が見つからない。急増したUber Eats(ウーバーイーツ)の人たちを見るにつけ、評者は前職のことが気になる。
「あとがきにかえて」で三浦さんは提言もしている。一つは「『日本郊外改造計画』を進めよ!」。在宅勤務を増やして給料を上げることを訴えている。BOOKウォッチで紹介した『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』 (ポプラ新書)によれば、フィンランドはコロナの前から在宅勤務が3割。国連が毎年発表している「幸福度ランキング」では2018、19年と2年連続で1位だった国だ。
二つ目は「寄生地主の権益を見直せ」。これは地主がもうけすぎだということ。多くの店が苦境に陥っている一因は高い家賃だ。三つ目は「オンライン大学で格差をなくせ!」。大学に通うために都会に出ていく諸経費や学費が削減できる。予備校はもともとオンラインのところが少なくない。教授の雑務も減り、良いこと尽くしだという。
本書はもともとの構想で7割ほどを書き上げていたところに、コロナを足し込んだので「ちょっと混乱した本」だと釈明している。しかし、かえって視点がクリアになった面もあるという。
BOOKウォッチでは、コロナ禍の先行きについて、『観光ビジネス大崩壊 インバウンド神話の終わり』(宝島社)、『新型コロナはいつ終わるのか?』(宝島社)、『巣ごもり消費マーケティング ~「家から出ない人」に買ってもらう100の販促ワザ』(技術評論社)なども紹介している。
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