東京の「夜の街」での感染が止まらないとされる、新型コロナウイルス。本書『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)は、影響を受けたネオン街の緊急ルポであると同時に、"濃厚接触"でしか生きることができない女性たちの証言を集めた本だ。
著者の中村淳彦さんはノンフィクションライター。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)など、貧困や風俗などの社会問題をフィールドに取材を続けている。本書を緊急出版することが決まり、緊急事態宣言下の4月20日から新宿・歌舞伎町に入った。
閑散とした中でも、ひっそりと営業をしているホストクラブはあった。出入りする女性客がいた。一方、街から姿を消したホストやキャバ嬢もいた。その生々しい言葉を集め、以下の構成になっている。
序章 ネオン街の悪夢 第1章 緊急事態宣言下の歌舞伎町 第2章 女子大生の"セックス無間地獄"が始まった 第3章 コロナに殺される熟女たち 第4章 池袋"売春地帯"で生きる 終章 コロナで政府の経済政策は変わるのか
歌舞伎町のスカウトマンのこんな話を紹介している。
「4月1日以降は95パーセント減くらいひどいことになっています。キャバ嬢もホストも風俗嬢も、いまはちゃんと仕事をしてきたプロだけが稼げている。兼業の片手間みたいなのは、この1カ月でみんないなくなった。消えちゃいました。まったく稼げなくなって、たくさんのホストやキャバ嬢が歌舞伎町からいなくなったし、実際に自殺しちゃった子もいます」
その一方で、営業していたホストクラブも少なくない。中村さんは現役の女子大生ながらソープで働く20歳の女性と知り合い、ホストクラブの前まで一緒に行く。
「歌舞伎町は壊滅状態といわれるなか、ホストクラブは営業していて大盛況だった。3密なのは当然、コロナはどこへ行ってしまったのか? という雰囲気だった」
緊急事態宣言下でも、ホストクラブ通いをやめられないキャバ嬢や風俗嬢は多かった。「夜の街」でクラスターが発生したのは、こういう事情があったからだ。
学費を払うために、医療福祉系大学に通いながら、池袋でデリヘル嬢をしている20歳の女性の話も衝撃的だ。
「こんなコロナの時期に風俗に来る人は質が悪いです。池袋はただでさえ質が悪いのに、いまは最悪です」 「コロナ騒動のなか、知らない人と毎日触れてます。大学の医療の授業で感染経路とか感染症とか、そんな話をさんざん聞いてるのに"何を私はやってるんだろ......"って思いながらやっています」
以前は風俗という「セーフティーネット」が女性にはあったが、風俗の世界は女性の供給ばかりが増大して、「ギリギリのセーフティーネットも破壊された」のが令和の現在だと指摘する。新型コロナ以前の段階で、すでに下層風俗嬢たちの収入は生活保護水準を下回り、「食べるのもやっと」といった危険な状態だったという。
そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナだ。彼女らのこんな言葉を紹介している。
「カラダを売れなくなったら死ぬしかないじゃないですか」 「コロナで月収は3万円とか2万円台とか」 「一日中、風俗の待機所にいる。家に帰る時間もなくなった」 「上野公園のハトのほうがいいものを食べている」 「もう、なにやっても無理です。政府は私たちに死ねって言っているのでしょうか」
中村さんが監修した『証言 貧困女子』(宝島社新書)で、貧困女子の次のターゲットと予想されていたのは中年男性だった。しかし、新型コロナウイルス蔓延により、それはモラトリアムになりそうだ、と書いている。
「平成に起こった悲惨な貧困がどんどんと可視化されているいま、生活保護を利用するのはなにも恥ずかしいことではなくなった。さらに雇用を奪われて困窮した中年男性が救済を求めれば、なにかしらの救済の手が伸びそうな芽くらいはみえる」
以前ならば、「貧困女子は自己責任」と非難されていたのが、コロナによってみんなが困窮し、そうも言っておられない状況になった、ということだろうか。
本稿でふれたのは、18人の女性の証言のほんの一部だ。とても言及できない新たな風俗や常軌を逸した生き方をしている女性らも登場する。それも貧困ゆえに堕ちるところまで堕ちたと見るのか、何らかの救済をと動くべきなのか、評者には正直わからない。ただ、コロナが"地獄の釜"を開いてしまったと言える気がする。水商売、風俗業界の惨状を報告した緊急ルポを読み、出るのはため息ばかりだ。
BOOKウォッチでは、『性風俗シングルマザー』(集英社新書)、『証言 貧困女子』(宝島社新書)などを紹介済みだ。
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