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「月5万円足りない」・・・普通の女性たちが風俗で働く訳

東京貧困女子。

 東洋経済オンラインの連載「貧困に喘ぐ女性の現実」は、1億2000万PVを超える人気連載。悲惨な生活を告白する女性たちに驚きながら、評者も愛読してきた。その連載をもとにしたのが本書『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)である。

 著者の中村淳彦さんはAV女優や風俗、介護などを長年取材してきたノンフィクションライター。著書に『日本の風俗嬢』(新潮社)、『女子大生風俗嬢』(朝日新書)、『崩壊する介護現場』(ベスト新書)、『AV女優消滅――セックス労働から逃げ出す女たち』(幻冬舎新書)などがある。

風俗嬢から見えてきた「貧困」問題

 AV嬢や風俗嬢の話をひたすら聞くというのが中村さんの取材スタイルだ。最低限の質問以外、ほとんどしゃべらないという。どんな話が返っても否定しないと、彼女たちはしゃべり出す。親からの虐待、精神疾患、借金、自傷行為など、さまざまな残酷な話が出てくる。結果として「貧困」という社会問題のフィールドワークをしてきたことに中村さんは気づいた。

 単身女性とシングルマザーの貧困問題を考えるため、「個人の物語」として書かれている。昔なら単なる「女性の転落物語」として読まれたかもしれないが、通して読むと、いくつか共通の問題点が見えてくる。

 冒頭に登場するのが、国立大学医学部の現役女子大生。教材費や部費の支払いのため、「パパ活」をしている。日本学生支援機構の奨学金で学費を工面するものの、通常のアルバイトだけでは学生生活が成り立たない。中村さんは「キャンパスは貧困の巣窟である」、「現在の大学生たちは、キャンパスが楽しく華やかだった30年前とはまったく違う世界を生きているのだ」と書いている。

 入学式の前に池袋のデリヘルで働き始めた私大夜間部に通う女子大生は、児童養護施設で育ったため、親はなく、仕送りはゼロだ。昼のアルバイトで生活費はまかなえるが、学費が払えない。風俗店で月6~10万円稼ぎ、貯金して学費に充てている。

 本書に登場する現役女子大生、元女子大生、元大学院生6人のうち、5人が性風俗や売春を経験し、3人が精神疾患に苦しんでいる。親の低収入、親の離婚、親の虐待などが転落の原因だった。

貧困の連鎖

 風俗で働いているのは「苦学生」ばかりではない。埼玉県の寮付きの工場で働く25歳の女性は時給1050円の派遣工員の給与では生活できず、池袋のデリヘルでもアルバイトし、月2、3万円を稼いでいる。以前介護職についたが、うつになり退職した。月1万5000円の高校の授業料を父親が払い渋り、中退したのが、躓きの原因だったと考えている。

 「子どもの教育には興味がない」ひとり親家庭で、貧困の連鎖が続いている、と指摘している。

 本書には単身女性のほか、シングルマザーも多数登場する。夫のDVなどが原因で離婚、事務職や介護職で働きながら子供を育てている例が多い。養育費がもらえなかったり、精神疾患が原因で働けなかったり、経済的に困窮している人が多い。

 中村さんは当事者の話を聞き、「足りないのは月5万円ほど」とリアルな数字を挙げる。「企業が払わないのならば、税金で面倒を見るしかない」と書いている。

 中村さんは最終章で、こう結論づけている。

 「東京の貧困女性たちのさまざまな声に耳を傾け、こうやって文章化することで一通り検討したが、ほぼほぼ国の制度と法律改定が原因だった。あとは男性からの暴力と精神疾患だ。自分なりに一生懸命に生きていたが、理不尽に追い詰められてその絶望を『自己責任』という一言で封印しているのが現状だ」

 大学生の過半数が自己破産相当の負債を背負って社会に羽ばたくことを余儀なくされている奨学金制度、自治体や公共施設で臨時職員、非常勤職員という形で雇用されている「官製ワーキングプア」、介護職の低賃金と厳しい労働......。

 転落したのは個々人だが、それをつくりだしているのは、社会の問題であることが見えてくる。徹底して「個人の物語」を書きながら、構造的な問題を描き出した著者の手腕と伴走した「慶應中退、本当にアンダークラスを生きてきた」女性編集者の力量に感心した。

 本欄では、貧困問題について、『その子の「普通」は普通じゃない』(ポプラ社)、『企業ファースト化する日本』(岩波書店)、中村さんの著書として『AV女優消滅――セックス労働から逃げ出す女たち』、(幻冬舎新書)などを紹介している。

  • 書名 東京貧困女子。
  • サブタイトル彼女たちはなぜ躓いたのか
  • 監修・編集・著者名中村淳彦 著
  • 出版社名東洋経済新報社
  • 出版年月日2019年4月18日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・350ページ
  • ISBN9784492261132
 

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