毎年、成人式の時期になると、派手な格好で問題行動を起こす若者たちの姿がテレビに映し出される。全国でも沖縄が突出しているような印象を受けていたが、本書『夜を彷徨う 貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま』(朝日新聞出版)を読み、その理由が少しわかったような気がする。売買春、不登校、深夜徘徊、窃盗、大麻、妊娠など、沖縄の少年問題に正面から切り込んだ本だ。
このテーマにかんしては、『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)、『ヤンキーと地元 解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房)と、近年優れた本が出ている。前者は上間陽子・琉球大学教授、後者は打越正行・沖縄国際大学南島文化研究所研究支援助手の著書で、二人とも研究者だ。
本書は、上間さんから「この現実をどうする? 新聞記者はいつまで見ないふりを続けるつもり?」と問いかけられた琉球新報の新聞記者たちが書いた連載をまとめたものだ。
以下の章タイトルといくつかの小見出しを見ただけでも、「青い海と空」のリゾート沖縄のイメージとは異なる、もう一つの現実が浮かび上がるだろう。
第1章 SNSの闇 中2売春の網に SNS介し性被害 売人、身近な所に 第2章 消費される性 店で「ピンサロ」強要 家を出るため風俗に 第3章 壊れた家族 生活費、全て自分で 児童虐待通告、最多 第4章 「仲間」依存 窃盗に「うきうき」 中1飲酒、2人昏睡 第5章 母になって 妊娠、学校を離れる 15歳「今度こそ産む」 第6章 取材の現場 「信頼している人なんていない」 「幼稚園まで幸せだった」
全体を通して感じたのは、SNSの普及によって、子どもたちの交際の範囲が学校の校区を越えていること、また車社会の沖縄ゆえに大人たちが介在する余地が大きいことだ。
売買春の被害に遭った中学生の少女は、遠くに行きたくなったらSNSに書き込み、車で送迎してくれる大人を「足」として使っていた。そして性被害を受け、その後、売買春を個人であっせんする男に脅され、「援デリ」という売買春を強要されるようになった。中3になった頃、男は摘発され、少女は補導された。「やっとやめられる」とほっとしたという。
家庭が壊れて、家に帰らない生活をしている子どもたちの話も多い。小学生の頃からキャバクラで働き、売春をしていた少女など、「貧困の連鎖」の一言で片づけられない生々しいエピソードが、これでもかと続く。
新聞連載中に、少女らの行動について「犯罪行為」と非難する声が寄せられたそうだ。『裸足で逃げる』を書いた上間教授は、本書のインタビューの中で、「子どもを問題化することで自分や社会を問題化しない、よくある反応の一つ」だと指摘。10代で働き始めた子どもが、大人になってから風俗業を選ぶ傾向があり、その背景には沖縄の低賃金もあると説明している。
『ヤンキーと地元』を書いた打越さんもインタビューに登場する。打越さんは、暴走族を原付バイクで追走し、建設現場で共に働きながら調査を重ねた。そして、沖縄の若者たちが生きる地元の支配的な「しーじゃ(先輩)・うっとぅ(後輩)の関係」に注目した。
10年前に比べ、ヤンキーは減り、「現在の10代は地元の厳しい上下関係から解放された一方で、不特定の『仲間』に依存している」と見ている。
不特定とつながるツールはSNSだろう。これは少女たちも同じだ。本書ではSNSで知り合った少女たちの間でも「しーじゃ(先輩)・うっとぅ(後輩)の関係」が存在することも出てくる。居場所が常時分かるアプリもあり、その息苦しさは相当なものだとも。
あとがきで、取材班を代表して新垣梨沙記者は、取材班が直接会って話を聞いた子どもは43人。そのほとんどが幼い頃から生活困窮や親からの虐待、学校での排除やいじめなどの暴力により、「不登校」という形でSOSを発していた、と書いている。
「指導の対象」として見るのではなく、「子どもたちが何を思い、どう過ごしているのかを知り、子どもたちを遠ざけない努力が必要」と結んでいる。本書は彼らを支える大人たちの取り組みも紹介している。
BOOKウォッチでは、関連として『本当の貧困の話をしよう―― 未来を変える方程式』(文藝春秋)、『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』(青弓社)、『ルポ川崎』(サイゾー)、『育てられない母親たち』(祥伝社新書)、『証言 貧困女子』(宝島社新書)、『性風俗シングルマザー』(集英社新書)、『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『その子の「普通」は普通じゃない』(ポプラ社)なども紹介済みだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?