2014年に「マイルドヤンキー」という言葉が流行語となった。関西の「ヤンキー」に対して関東では「ツッパリ」と言われてきたが、「ヤンキー」が全国区になったことを示す現象だった。
ネットでも「ヤンキー」や彼らを揶揄した「DQN」という表現があふれている。また批評的に取り上げる雑誌や本も少なくない。本書『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』(青弓社)は、彼らに長期間密着し研究した社会学者の博士論文がもとになった本だ。ヤンキーについての初の学術的研究と言ってもいいだろう。
著者の知念渉さんは、神田外語大学外国語学部講師。ある大阪府立高校の協力を得て、2009年から2012年まで「参与観察」という手法で生徒たちをフィールドワークした。さらに卒業後も20代前半まで追跡した。対象になったのは14人。調査を続ける中で話をするようになり、より深くインタビューできるようになった〈ヤンチャな子ら〉だ。
彼らの学校体験について意外な分析をしている。教師とは一見対立的に見えるが、きわめて好意的な思いを抱いているというのだ。教師たちの熱心な指導のおかげで進級できたことを知っており、肯定的に評価していた。
にもかかわらず、「生活環境の悪化、少年院や鑑別所への送致など、教師たちの裁量で対処することが難しい出来事が直接的な契機になって、結果的に学校を中退」する子も多い。
14人はどうなったか。留年せずに卒業した者が3人、留年しながらも卒業した者が3人、中退した者が8人(うち2人はその後、通信制高校を卒業)。同高の中退率が約30%という数字からもかなり高い。
しかし、卒業した者が必ずしも安定した仕事をしている訳でもなく、中退しても3年以上同じ仕事をしている者もいる。6人についてさらに詳しく分析・記述している。
知念さんは一言でこう整理している。
「『人の下につかない』仕事を模索するトオル、居酒屋を経営したいという夢に向かって現場仕事と居酒屋スタッフを掛け持ちするコウジ、『地元のツレのオカン』の紹介で入った工場で働き続けようと考えているカズヤ、学校経由で就職した仕事を辞めて『グレー』な仕事や『風俗関係』の仕事を転々とするダイ、彼女の妊娠をきっかけにして『フリーターじゃあかん』と考えて地元の友達の紹介で正規職に就いた中島、音楽活動を生活の中心に据えるために『派遣』として働くヒロキ、である」
〈ヤンチャな子ら〉の中にも階層性があるという。在学中、非行経歴のある者は相対的に地位が高く、かつていじめにあっていた者は「インキャラ」と呼ばれる弱い者に対して攻撃的にふるまうことによって、集団の中に自らを位置づけようとしていた。
就職、転職にあたっては、誰かの「紹介」という社会的ネットワークが足がかりになっている。知念さんは〈ヤンチャな子ら〉のなかには「社会的亀裂」があり、家族関係を土台とした地域とのつながりの有無がそれを決めると指摘している。
本書に登場する〈ヤンチャな子ら〉の家庭環境や成育歴は引用がはばかられるものもある。同高校自体、ひとり親率は50%以上、生活保護世帯率は約30%という厳しさである。
知念さんは「ヤンキー」と括られる人々の内部に目を向けることが大切だとし、アンダークラスとしてカテゴリー化することの危険性を訴える。
本欄では「ヤンキー」関連書として『ルポ川崎』を紹介済みだ。
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