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AIで「ターミネーター」は作れるのか?

AI兵器と未来社会

 AI社会が進むと、さまざまなことがAIに取って代わられるという。便利になる一方で、仕事がなくなる、やがてAIに支配される・・・。中でも、極め付きの不安は、AIによって戦争が繰り広げられるようになるのではないか、というものだ。本書『AI兵器と未来社会――キラーロボットの正体』 (朝日新書)は、最新の情報をもとに、そんな疑問にこたえる。新時代の戦争はどうなるのか。

手塚治虫はすごかった

 著者の栗原聡さんは、慶應義塾大学理工学部教授。博士(工学)。電気通信大学人工知能先端研究センター特任教授、大阪大学産業科学研究所招聘教授、人工知能学会倫理委員会アドバイザーなどを兼任。人工知能学会理事・編集長などを歴任。人工知能、ネットワーク科学などの研究に従事。多数の著書や翻訳がある。

 本書は序章で「人工知能の『今』」を説明。第1章から順に「知能とは何か」「意識とは何か」「人のような知能を持つ機械はどうやって作るか?」と進んでいく。そして第4章以下で「人工知能は人を殺せるのか?」「キラーロボット研究開発の現状」と核心に入り、「人間社会は人工知能とどう向き合うべきか」と問いかける。途中までは、いわば人工知能をめぐる概論、4章から本論という構成だ。

 1章では、人工知能の歴史を三段階に分けて解説している。「人工知能」(Artificial Intelligence)という言葉が生まれたのは1956年のことだという。その10年前の1946年に最初のコンピュータ「エニアック」が誕生した。ここで驚いたのは56年にすでに手塚治虫が『鉄腕アトム』を出版しているということ。漫画の世界とはいえ素早い動きだ。横山光輝の『鉄人28号』も同年出版だという。この時期が第一次の人工知能ブームだったというのはうなずける。

「民用」と「軍用」

 その後、80年代の第二次ブームを経て現在は2000年ごろから続く第三次のブームのさなかにある。過去二回とは明らかに様相が異なる。IT社会が到来し、いろいろなことが具体化、現実化しつつある。AIBOが登場し、将棋などの対局でコンピュータがトップ棋士に勝ったり、ホテルの受付嬢がロボットになったり、車の自動運転の研究が進んだりしている話が報じられている。家電製品なども、お掃除ロボットに象徴されるように、どんどん賢くなっている。生活がらみの「民用」の世界ではこれからさらにAIの出番が増えていくことはだれしも想像できる。

 問題は「軍用」だ。こちらはふだん報道されることが少ない。もともと秘密のベールに覆われ、各国とも簡単には手の内を明かさないからだ。栗原さんはAI兵器のレベルを、大別して5つのタイプに分けて解説している。

 タイプAは半自動型兵器。攻撃対象は人が設定し、トリガーは遠隔で人が引く。その過程の多くが自動化されている。タイプBはどのタイミングでトリガーを引くかというプログラムが組み込まれ、トリガーを人ではなく人工知能が引く。自動型兵器だ。タイプCは集団自動型兵器。タイプB同士の連携機能が追加されている。タイプDは人と同じような問題解決能力を持つ自律型兵器。タイプEはタイプDの集団。つまりAI兵器は、半自動→自動→自律と進化する。

6か国が開発競う

 実はこれらの一部はすでに開発されている。タイプAは米国の海洋発射ミサイルのトマホークなど。タイプBはイスラエルの「ハーピー」と呼ばれる無人攻撃機。攻撃対象と、その攻撃対象近辺のエリア情報は人が入力するが、発射してしまえば地上からの遠隔操作は不要だ。標的を自動で見つけ、追突して自爆する。

 タイプCは中国の電子科技集団が開発し、実戦投入が秒読み。119機のドローンが鳥の群れのように編隊を組んで飛行し、攻撃目標に近づくと、二つの編隊に分かれてターゲットを取り囲む。その映像は中国のAI技術の発表会で披露され、2018年12月28日の朝日新聞が「AI兵器開発、米中しのぎ ドローンが攻撃判断、『自動戦争』に現実味」という見出しで大々的に報じていた。BOOKウォッチでも『ドローン情報戦――アメリカ特殊部隊の無人機戦略最前線』(原書房)の記事で紹介済みだ。

 タイプDは映画「ターミネーター」に登場するシュワルツェネッガー扮するT-800型アンドロイドなど。臨機応変に自分(人工知能)の頭で考えて行動する。もちろんまだ未開発だ。

 兵器に限らず、現在の人工知能の開発レベルはタイプCまで。ところが世間では人工知能というと、タイプDを想像しがち。研究現場と社会とのずれが生じ、「人工知能に職を奪われる」「支配される」と心配する人が少なくないと栗原さんは指摘する。

 現在、AI兵器の開発は、イスラエル、ロシア、アメリカ、中国、フランス、韓国の6か国で行われていることがわかっている。国際会議の場で、AI兵器のルール作りの作業も行われているという。AI兵器を管理しようというわけだ。「原爆」と似たような感じなのだろうか。

トリガーを引くのは機械ではない

 新時代の戦争は、テレビゲームと同じだといわれる。戦場から遠く離れたところで、AI兵器を遠隔操作する。すでに一部では始まっている。敵を殺したという実感がわきにくい。

 それでも、自分の手でトリガーを引くというのはあまり気分の良いものではないということが、前出の『ドローン情報戦――アメリカ特殊部隊の無人機戦略最前線』に出ていた。著者はアメリカ陸軍特殊部隊のドローン戦部隊の元エキスパート。アフガニスタンなどで実戦の経験がある。攻撃対象を選んで殺害できる権限を付与されていたが、殺害を決める最終段階では必ず「人違いだったらどうする?」と迷ったそうだ。これはタイプAのケースだと思われる。

 栗原さんは書いている。タイプBの場合、機械がトリガーを引くように設計されているが、そのようにプログラミングするのは開発エンジニアだ。人工知能がトリガーを引くように見えて、実はエンジニアが引いているということなのだと。

 つまり、このAI兵器の最大の怖さというのは、民間人が戦争に関与するというところにある。殺害の瞬間、エンジニアはいつもと同じように戦場から遠く離れた近代的なオフィスに出勤して、普段通りの仕事をしている。しかし、結果的に自分が書いたプログラムが人を殺すことになるのだ。「大きな精神的ストレスを感じるに違いない」と栗原さんは心配する。これは案外、見過ごされそうな視点だが、実は非常に大事なところだなと痛感した。AI兵器では、民間人が軍人に成り代わって、大量殺戮を推進するのだ。

 BOOKウォッチで紹介した『超限戦――21世紀の「新しい戦争」』(角川新書)の著者はすでに書いている。「核戦争という言葉さえ古くさい軍事用語になってしまいそうな今日の世界では、度の強い近視眼鏡をかけた色白の書生の方が、頭が単純で筋肉が盛り上がっている大男よりもっと現代の軍人にふさわしい」。

 世界は今、ウイルスとの「新しい戦争」で大混乱だが、AI兵器についても目を凝らしておく必要がある。

 BOOKウォッチではこのほか、『サイバー完全兵器』(朝日新聞出版)、『AIが人間を殺す日』(集英社新書)、『中国共産党と人民解放軍』(朝日新書)、『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』(筑摩書房)なども紹介している。

  • 書名 AI兵器と未来社会
  • サブタイトルキラーロボットの正体
  • 監修・編集・著者名栗原聡 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2019年9月13日
  • 定価本体750円+税
  • 判型・ページ数新書判・192ページ
  • ISBN9784022950215

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