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あまり共感出来ない貧困女子たちの人生

証言 貧困女子

 「貧困女子」という言葉が定着して数年になる。令和になり、女性たちの貧困はますます悪化しているようだ。本書『証言 貧困女子』(宝島社新書)では、さまざまな年齢の女性たち39人が赤裸々に困窮した生活を語っている。監修にあたったノンフィクションライターの中村淳彦さんが「貧困女子は国の政策によって生み出された『被害者』である」など、随所で的確に解説している。

貧困女子は中高年、老人にも

 「貧困女子」系の本は、中村さんの『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『日本の貧困女子』(SB新書)など最近多いが、本書は20代前半から70代まで幅が広いのが特徴だ。数人のライターが手分けして取材した。見出しをいくつか挙げよう。この手の本を読み慣れている評者も唖然とするようなケースが少なくない。

 〇主食は30円のもやし。"パパ活"が命綱の女子大生
 〇島根から上京、日給7500円でネットカフェ生活
 〇借金まみれのDV男と離婚、46歳で生活保護
 〇劇団生活での借金500万円をデリヘル返済
 〇1回5000円、"生活保護の街"で売春する70歳
 〇両親が離婚、女子高生でホームレス経験した短大生
 〇彼氏の借金200万円で風俗嬢になった22歳

「貧困のスパイラル」が続く

 「第1章 非正規女子の絶望」「第2章 シングルマザーの悲劇」「第3章 介護女子の失意」「第4章 高齢女性の自棄」などの7章構成。属性によって、ある程度問題点は浮かび上がるのだが、本書に登場する人たちは構造的な問題に加えて、かなり個人的な理由で「貧困のスパイラル」に陥っている人もいるので、あまり共感しないかもしれない。

 たとえば、ある非正規女子26歳。生活保護を受けながら、倉庫でピッキング(検品、仕分け、梱包)のアルバイトをしている。家庭環境が悪く、中学時代から援助交際、盗みを繰り返し、少年院を出た後は覚せい剤中毒になり実刑判決。女子刑務所を出て、いま人生で初めて経験するまともな昼職に就いた。「でもいつか、犯罪者の血が騒いでまたムカつく同僚や上司をボコボコにしそうで怖い。この先も貧乏のままか、刑務所に戻るしか、私には道がないと思います」と話す。

 また、あるシングルマザー28歳は、恋愛体質で若くしてバツ3、食品工場で働きながらも生活が苦しく(月給7万円)、援助交際で3人の娘を養う。

 しかしながら、構造的な問題は大きい。監修の中村さんは、20代後半から30代前半の女性の経済的苦しさは、1999年と2004年に施行された労働者派遣法改正により、政策的に非正規労働者を採用できる業種を拡大したことを理由に挙げる。

 また、日本のシングルマザーの貧困は、国際的にも異常な水準で、ひとり親世帯の貧困率は50.8%と、OECD各国の中で最下位だ。うつ病、双極性障害、統合失調症と精神疾患に悩まされる母親は多いという。

 本書の個々のケースを読み、「自己責任」というレッテルを貼る人もいるかもしれない。正直言って、サブタイトルが「助けて! と言えない39人の悲しき理由」とあるように、ここに引用出来ないような倫理的に問題がある例もある。しかし、多くは10万円かそれに満たない低賃金できつい仕事をまじめにしている人たちだ。

 以前は風俗という「セーフティーネット」が女性にはあったが、風俗の世界は女性の供給ばかりが増大して、「現在、従来の貧困女子たちはカラダを売ることも許されなくなった」と中村さんは書いている。

 介護の職場もブラック労働すれすれで、本書には風俗への転職を考える24歳のヘルパーがこう話している。

 「施設でおじいちゃんの漏らしたうんちの処理をするのも、風俗で性処理するのも仕事のハードさということでは大差ない」
 「介護施設でもお年寄りからセクハラされることはたびたびで、だったら風俗のほうが、お客さんから『ありがとう』ぐらいは言ってもらえそうな分、精神的にもよほどいいんじゃないですかね」

今後は中年男性が貧困化のターゲットに

 中村さんは、女性の貧困化は法的な最低生活水準である生活保護受給者並みまで来たので、もう落ちようがないと指摘する。そして新たなターゲットはホワイトカラーの中年男性だと予測する。そして貧困女子の下に「最貧困おじさん」層が生まれるという。「自己責任」という言葉が男性にも跳ね返ってくるのだろうか。

 
  • 書名 証言 貧困女子
  • サブタイトル助けて! と言えない39人の悲しき理由
  • 監修・編集・著者名中村淳彦 監修
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年2月 1日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・254ページ
  • ISBN9784299000668

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