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日本人が「コロナ禍」を本当に実感するのは秋以降だ!

観光ビジネス大崩壊 インバウンド神話の終わり

 誰もが内心思っていることを、タイトルで大胆に言い切っている。『観光ビジネス大崩壊 インバウンド神話の終わり』(宝島社)。コロナ禍で未曽有の大打撃を受けている観光業界。立ち直りのきっかけになるかと思った「Go To トラベル」キャンペーンは、スタート前からゴタゴタ続きで開始翌日には、全国で過去最高の感染者となってしまった。いつになったらコロナ禍は収まるのか。観光産業はもう復活できないのか。

GoToの不安を予測

 コロナ禍で多数の本が出版されているが、本書は今の時点で読んで、大変参考になる本だ。現状と今後に関する見取り図が明確で、予測が当たっている。

 本書の内容はおおむね6月段階の情報をもとにしている。コロナ禍がほぼ沈静化していた時期だ。にもかかわらず、例えば「GoTo」について、「今後の感染状況によっては、特に東京都民が全国を旅行することについて『自粛するべき』との意見は必ず出てくるでしょう」と指摘している。結果的にその通りになっている。

 7月中旬の段階でも、政府は「第二波」を認めず、同調するメディアもあった。政府は「GoTo」を予定通り実行しようとしたが、感染者の急増で直前になって「東京除外」が決まった。そんなことを考え合わせれば、本書の見通しは的確だ。以下の3章構成になっている。

 第1章 「観光立国」の未来
 第2章 インバウンドという麻薬
 第3章 アフター・コロナへの道程

 政府は2020年に訪日外国人観光客4000万人をめざす、としていた。その目標はあっさり潰えた。4月の訪日客は2900人、5月は1700人。99.9%減だ。当面は「爆買い」も期待できない。「世界同時鎖国」で影響は長引くことが確実だ。来年の東京五輪も開けるかどうかわからない。「観光立国」は解体的な出直しを迫られている。本書はそうした現状認識のもとに、シビアな状況を報告する。

 ・全国観光地「中国人観光客」依存の後遺症
 ・現実味帯びるJAL+ANAの「国有化」シナリオ
 ・コロナ直撃! 宿泊・飲食「ドミノ倒産」の深刻度
 ・経産省「Go Toキャンペーン」のコロナ拡散リスク
 ・8兆円の損失と試算された「東京五輪中止」の悪夢・・・

コロナの影響は予想以上のものになる

 著者は「磯山友幸+新型コロナ問題取材班」。磯山さんは1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年に独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

 冒頭に取材班による磯山さんへのインタビューが掲載されている。わずか10ページほどだが、これが現状を簡潔にとらえていて実にわかりやすい。

 ・コロナの影響は予想以上のものになる。実感するのは秋以降。
 ・アメリカではすでに5月末までに失業保険の申請件数が4000万件。4人に1人が失業。
 ・日本では10月から11月にかけて中間決算で「赤字決算」を発表する企業が続出する。かなり広い業種で冬のボーナス停止や減額、新卒採用中止、希望退職募集などのリストラが始まる。
 ・リーマン・ショックはまず川上の金融システムが破綻し、その影響が実体経済に波及するという構図だった。コロナ禍は川下の消費産業が直撃を受けている。中小・零細企業が多い。これらに融資していた地域の金融機関の経営危機が今後、表面化する可能性がある。影響は川下から川上へ。リーマン・ショックとは逆方向だ。

 インバウンド消費は年間5兆円近い。今年度はほとんどが消える。百貨店でも売上の15%程度をインバウンド消費に頼ってきた。ダメージは大きい。政府はいま、持続化給付金などで企業を支援しようとしているが、一時的な資金繰りに間に合っても、ビジネスモデルが破綻している企業はやがて破綻する、と手厳しい。

日本はIT活用の後進国

 本書で興味深かったのは「アジア諸国のデジタル戦略と日本の観光産業の未来」という記事だ。中国がコロナ拡散防止で、AIとスマホを活用したシステムを構築したことはよく知られている。ネット問診による回答状況やGPSの移動履歴などから感染リスクがスマホに表示される。三色の色でリスクを識別する「健康コード」だ。ビルの入館や交通機関の利用時などに提示が求められる。使いこなせない人は外出もままならない。団地から買い物に出るときも、チェックポイントがあった。

 これに類した「強い措置」は韓国、台湾、香港などでも実施されているという。韓国ではクレジットカードの決済情報も活用されたそうだ。

 要するに日本以外の東アジア各国は「強い措置」でコロナを抑え込んでいる。ベースにはIT活用がある。日本より「遅れている国」と日本人が思い込んでいる中国や韓国、台湾が、IT活用では先んじている。

 日本でも6月19日から「新型コロナウイルス接触確認アプリ」が導入されている。しかし、本書によれば、先行諸国でうまくいっていないシステムらしい。

「和風旅館」を中国人が「爆買い」

 「宿泊客減少に苦しむ富士山周辺の『和風旅館』を中国人が『爆買い』攻勢」という興味深い報告もある。1~2億円で15~20室の旅館を手に入れることが可能だという。交渉はオンラインだそうだ。「中国人頼み」だった観光立国がコロナで傾き、経営不振になった旅館などが中国人に買い叩かれている。かねてから一部でそうした動きがあったことは報じられているが、コロナ禍で加速したようだ。そういえば、東京・銀座あたりでも似たようなことが起きているという話を耳にしたことがある。

 在日の中国人はこの20年で約3倍の100万人に近づいている。『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)によれば、最近は、ビジネスマンも増えている。中国経済はすでに回復基調ということらしいので、今後そういう動きがますます広がるかもしれない。

 このほか、本書では「大阪・横浜も撤退を模索 外国企業に見放されたIR『カジノ構想』の悲劇」「ロックダウンから3か月 8月『観光再開』を目指す日本人が消えた『ハワイ』のいま」「観光政策を一手に仕切る菅義偉官房長官の『官邸内失職』がもたらす意味」などの報告もある。盛りだくさんな内容だ。

 BOOKウォッチでは関連で、『新型コロナはいつ終わるのか?』(宝島社)、『2020年世界大恐慌』(第二海援隊)、『新型コロナと貧困女子』(宝島社新書)、『百貨店・デパート興亡史』(イースト新書)、『復活の日』(角川文庫)など多数紹介している。

   


 
  • 書名 観光ビジネス大崩壊 インバウンド神話の終わり
  • 監修・編集・著者名磯山 友幸+新型コロナ問題取材班 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年7月17日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数A5判・144ページ
  • ISBN9784299007322
 

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