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地震、土砂災害...日本で多いのはなぜ?

教養としての「日本列島の地形と地質」

 集中豪雨による土砂災害が心配される季節。本書『教養としての「日本列島の地形と地質」』(PHP研究所)は、日本列島の地形と地質への興味をもってもらうと共に、自然災害への理解を深めることを目的に書かれた本だ。

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 著者の橋本純さんは1972年生まれ。茨城大学大学院理工学研究科を修了。建設コンサルタント会社に勤務し、約20年間、技術者として災害復旧の調査・設計業務(公共事業)を経験。2021年に企業防災のコンサルティングを行う「ジオわーくサイエンス」を創業。また同年、自然災害やハザードマップの普及促進を目的に「一般社団法人みんぼうネットワーク」を設立。

 自然災害の専門知識の翻訳者になりたいと、「地形・地質」を前面に出して情報発信を行っている。自然災害だけではネガティブなイメージを持たれるからだ。NHKのテレビ番組「ブラタモリ」のおかげで「ある地域の地形・地質的な成り立ちの歴史」に興味を持つ人が増え、活動の後押しになっているという。

 本書は2部構成。第1部は「日本列島はどんなところ」。日本に自然災害が多い理由、日本列島ができるまでの歴史、地質学の基本を取り上げている。

 第2部は、47都道府県の、とある地域をピックアップして、その地形・地質をくわしく紹介している。いわばミニ「ブラタモリ」のような内容である。

 まず、第1部第1章で、日本が災害大国である理由を説明している。基本的には気象条件とプレート(地球表面を覆う硬くて薄い岩盤の殻)だという。

 気象条件は、雨や雪が多いこと。雨や雪解け水で河川の水が多くなれば、山が削られ、脆くなり、崩れやすくなるし、洪水も起きる。

 また、日本周辺にはプレートがひしめき合っている。プレートのせいで、日本では地震も火山も多く、地層が細切れで安定せず、断層も多い。2003年から2013年までの間に世界中で発生したマグニチュード6以上の地震のうち、日本は18.5%を占めていた。日本の国土面積が世界全体の約0.25%であることを考えると、いかに地震が多いかがわかる。

 火山はプレートの境界に多いため、火山も多い。世界に火山は1551あるが、そのうち日本は110と7.1%を占める。国土面積を考えると、地震同様に多いのだ。

ツギハギだらけの日本の地質

 次に、橋本さんは「日本はツギハギだらけ」だと指摘している。イギリスと日本の地質図を比較し、きれいに北西から南東に向かって色の濃さが変わるイギリスに対し、日本はモザイク状になっている。

 これは日本列島の土台がもともとはユーラシア大陸の一部、しかも大陸の端っこにある付加体と呼ばれる、細切れで雑多な地質がモザイク状に集合した陸地だったことに由来する。

 それがある時、大地が引き裂かれて細切れになり、南東の方に移動してきたのだから、当然キズ(断層)だらけだと説明する。日本列島の激動の歴史が、ツギハギで弱く脆い地質をつくってしまったのだ。これこそが日本に土砂災害が多い原因の一つだと指摘している。

 地質学の基本では、岩石の分類を解説している。「泥や砂や石ころが溜まって地層になって、長い年月の間に固まって岩石になった」堆積岩、「マグマが冷えて固まって岩石になった」火成岩、「もともとは堆積岩や火成岩だったものが、マグマに焼かれたり、地下の深い場所で強い圧力を受けたりするなどの影響によって、別の岩石に変わった」変成岩の3グループがあり、それぞれ細かく分類される。

 たとえば、堆積岩では、泥が固まったものは泥岩、砂が固まれば砂岩、火山灰が固まれば凝灰岩といった具合だ。「ブラタモリ」でタモリがとっさに岩石の名前を言い当てるのは、その場所の環境を考え、昔はどんな場所だったかをうまく推理しているからではないだろうか。

 第1部で得た知識をもとに、第2部を読むと理解が進むだろう。たとえば、青森県では八戸市中央部を南北に流れる新井田川が中流域で蛇行するさまを取り上げている。古生代ペルム紀前期~中生代白亜紀前期(約3億年~1億2500万年前)の付加体の地質だという。他県の河川を見ても付加体は河川が蛇行しやすい地質だと指摘している。

 群馬県では妙義山の奇妙な形がなぜつくられたか、長野県では山奥なのになぜ「海」のつく地名があるのか、三重県の伊賀市や名張市にはなぜ池が多いのか、など各地のさまざまな地形について解説している。

 楽しい本だが、1カ所だけ厳しい調子で書いているところがある。2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害について、盛土が崩れているので土石流の原因の一つではあるが、仮に盛土が崩れなかったとしても、この地域はもともと土砂災害が発生する可能性がある地域だというのだ。ハザードマップでは伊豆山地区は土石流警戒区域になっている。

 「ここまで生きてきて(70~80歳)こんなことは初めてだ」と落胆する地元の人の気持ちは痛いほどわかるが、「人間の時間感覚で災害を考えてはいけない」と警告する。

 橋本さんが地すべり調査をしたとき、約5000年前の縄文時代も地すべりを起こしていた事例があったという。

 先日、福島第一原発事故をめぐる訴訟で、東京電力の当時の経営陣に13兆円の賠償責任があるという判決が出た。平安時代の869年、貞観地震により東北太平洋岸に大きな津波が発生したことがわかっており、巨大津波が予見できたのに対策を先送りして事故を招いたと認定された。

 まさに、「人間の時間感覚で災害を考えてはいけない」という指摘があてはまる事例ではないだろうか。

BOOKウォッチでは関連で、『地形散歩のすすめ――凹凸からまちを読みとく方法』(学芸出版社)、『増補改訂 凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(宝島社)、『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 教養としての「日本列島の地形と地質」
  • 監修・編集・著者名橋本純 著
  • 出版社名PHP研究所
  • 出版年月日2022年1月 6日
  • 定価2035円(税込)
  • 判型・ページ数A5判・274ページ
  • ISBN9784569850962

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