昨年(2017年)の熊本地震、今年(2018年)の北海道胆振東部地震と国内最大級の震度7を記録する地震がこのところ続いている。本書『日本列島の下では何が起きているのか』(講談社ブルーバックス)は、まさにそうした疑問に答える本だ。
著者の中島淳一さんは、東京工業大学理学院地球惑星科学系教授で、日本のようなプレートの「沈み込み帯」の地震・火山の専門家。プレートとは何かという基礎に始まり、沈み込む前の海洋プレートで起こる「含水化」に注目し、プレート内の水の挙動を説明。さらに「日本列島の下」で起こるさまざまな現象を紹介。見ることのできない日本列島の地下のようすをわかりやすく解説する。
NHKの人気テレビ番組「ブラタモリ」を見ていると、たびたびプレートの移動や衝突で日本の山の地形ができたことが紹介される。いまの伊豆半島もそうだった。フィリピン海プレートに乗った海底火山や火山島がプレートの沈み込みによって北に移動。本州が乗っているユーラシアプレートに100万年前ほどに衝突、60万年前に現在のような半島になった。
プレートの考えを取り入れると、山地・山脈の形成など、それまで原因がわからなかった地学現象の説明がうまくつき、当初の「仮説」扱いから確かな概念として定着したという。冷えたプレートの沈み込みと地球内部のマントル最下部からの熱い物質の上昇が、マントル対流の原因で、これによってプレートは動く。
現在、日本列島の下には、太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいるが、地質学的にはかなり最近のことだという。それ以前には「イザナギプレート」と呼ばれるプレートなど3つのプレートに太平洋プレートは囲まれており、日本列島の土台となる陸地はまだユーラシア大陸の一部で、その下にイザナギプレートが沈み込み、プレート上の堆積物が大陸に付加され、現在の日本列島、とくに西南日本を形づくった。イザナギプレートは沈み続け、約5000万年前に姿を消してしまったという。
従来、日本周辺の主なプレートは、ユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの4つとされてきたが、近年の研究で、さらにオホーツクプレート、アムールプレートという2つのプレートが配置されることがわかったそうだ。北海道や東北日本はオホーツクプレートに属すると考えられている。また西南日本、朝鮮半島、中国東北部はアムールプレートに属するという。
プレートの境界で摩擦があると地震が発生する。本書の第6章は、南海トラフで繰り返されてきた地震など、これまで日本で起きたプレート境界地震を取り上げている。また境界がゆっくりとすべる「スロー地震」という現象が西南日本でしばしば起きていることを紹介している。まだそのメカニズムはわからないが、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の前にもプレート境界がゆっくりすべった可能性があるという。
沈み込んだ海洋プレート(スラブ)の中でも地震は発生する。太平洋プレートが沈み込む、北海道、東北地方では深さ300キロまで地震が発生する。中島さんはマントルのかんらん岩が水と反応して形成される含水鉱物、蛇紋岩に注目し、「スラブ内地震は、含水鉱物が脱水分解する相境界付近で多く発生している」ことがわかったと書いている。
本書の最終章は関東地方の地下に焦点を絞っている。関東地方はオホーツクプレートに属し、その下に2つの海洋プレートが沈み込んでいる。房総半島の南東には、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、相模トラフの3つの収束境界が一点で交わる三重会合点が存在する。プレート運動学的には、関東地方は世界でたったひとつのきわめて特殊な場所なのだ。したがって関東地方では6つのタイプの地震が発生。特に茨城県南西部と千葉県北西部には「地震の巣」とよばれる密集した震源域があるという。
なぜ地球内部の岩石の様子がわかるのかと最初は疑問に思ったが、本書を通読して疑問は解消した。現在、地表に出ている岩石はかつて地球の奥深くで形成されたものであり、現在から過去、そして未来の姿がわかるからである。
ふたたび「ブラタモリ」に戻るが、先日、北海道の旭川を取り上げた回で、周囲を山に囲まれた盆地の旭川で、唯一、石狩川が外に流れ出る場所がもろい地盤の蛇紋岩が露出する神居古潭であると紹介された。手でさわるとぼろぼろ崩れるほどで、本書で中島さんが注目しているゆえんがわかった。
本欄では、プレートテクトニクスについて解説した『太平洋』を紹介している。
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