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「ブラタモリ」ファン必読。地形を知るための入門書

地形散歩のすすめ

 NHKの人気番組「ブラタモリ」を見ていると、道の高低差、坂道、断層、暗渠などが、土地の成り立ちをよく説明していることがわかる。本書『地形散歩のすすめ――凹凸からまちを読みとく方法』(学芸出版社)は、地形散歩の達人による地形や地質の入門書だ。

 著者の新之介さんの本名は新開優介。「大阪高低差学会」代表。「ブラタモリ」の大阪などの回で案内役も務めた。著書に『凹凸を楽しむ 大阪「高低差」地形散歩』(洋泉社)、『京阪神凹凸地図』(昭文社)などがある。

 第1章で地形散歩の楽しみ方を語っている。地形を表すものとしては等高線を記した地図が一般的だが、等高線で地形の変化を読み解くのは難しかった。ところが、国土地理院がデジタルデータの「数値地図5メートルメッシュ(標高)」を一般公開したことで、アプリを使えば、一般人でも高精度の地形図を作成することが可能になったという。

 都市部など比較的平坦な場所でもわずかな凹凸を表示することが可能になり、スマホやタブレットで凹凸地形をいつでもどこでも眺めることが可能になった。こうしたこともあり、地形散歩をする人が増えている。

 第2章以下で具体的な地形について解説している。構成と主な項目は以下の通り。

 第2章 「まちなか」で楽しむ地形散歩 上町台地と熱田台地、武蔵野大地
 第3章 「山地」がつくる地形 山、V字谷・先行谷、滝、扇状地、断層崖
 第4章 「河川」がつくる地形 三角州、中洲、河岸段丘、天井川
 第5章 「海岸」がつくる地形 砂州、海食崖と波食棚、海成段丘、砂浜海岸
 第6章 「火山」由来の地形 花崗岩、安山岩・サヌカイト、凝灰岩、玄武岩・柱状節理
 第7章 「地形」と人の暮らし 古道・旧道・街道、古墳、水車、温泉

台地の先端につくられた大阪城、名古屋城、江戸城

 とてもすべてを紹介することは出来ないので、印象に残ったところに触れたい。「ブラタモリ」の「大阪」と「名古屋」の回で取り上げられていたが、大阪城と名古屋城はそれぞれ、大阪の上町台地と名古屋の熱田台地の先端につくられた。本書の第2章の冒頭は、その2つの台地についての記述から始まっている。地形図を見ると、それぞれ半島のように突き出ていることが分かる。縄文時代に起こった海進によって大阪平野の大部分は海の底に沈んだが、上町台地は半島のように存在し、台地の西側には波によって削られた崖が海食崖として残っている。その北端に豊臣秀吉が築いた大坂城がある。

 名古屋の熱田台地も上町台地とよく似た印象だ。北端の最も高い場所には徳川家康が築いた名古屋城があり、南端には熱田神宮がある。

 これとまったくイメージが異なるのが東京の武蔵野台地だ。東端は、6つの河川が谷を刻んで分断して大きく7つの台地に分かれている。それぞれ上野台、本郷台、豊島台、淀橋台、目黒台、荏原台、久が原台と名前がついている。谷地形が鹿の角のように枝分かれし、先端では脳のしわのように密になっている。東京が谷の街であることがよく分かる。

 皇居がある江戸城は東の突端部にある。「天守閣から眼下を眺めると、海岸線や沖積平野が広がっていた光景は、大坂城や名古屋城とも似ていたかもしれない」と書いている。

 台地の先端に城を築いたのは、戦国武将が防御と経済活動の両方を視野に入れていたためだろう。

大阪や関西の事例が豊富

 著者が大阪の人なので、大阪や関西の事例が豊富に出てくるのも類書にない特徴かもしれない。先ごろ、大阪市西区天下茶屋で住宅2棟が崖下に転落する事故があったが、この現場がまさに上町台地の海食崖の跡である。本書でも高低差15メートルの急な崖の写真が載っている。平坦だと思われている大阪の中心部に崖があるのは、こうした理由があるからだ。

 中沢新一さんが提唱した「アースダイバー」についても紹介している。海水面が現在よりも数メートル高かった縄文海進期の海岸線をたどりながら歩くのが「アースダイバー」式だ。新之介さんも大阪で「アースダイバー」式散歩を続けているという。古代の景観を頭の中で妄想しながら歩くようにしているそうだ。

 評者も「ブラタモリ」のファンで、ほぼ毎回欠かさず見ているが、本書には「ブラタモリ」に登場した場所や地形が頻繁に出てくる。京都の「伏見」の回で紹介した巨椋池という湖のような巨大な池についても詳しく解説している。宇治川と淀川との合流点にあり、京都盆地の天然の遊水地の役割を果たしていた。豊臣秀吉が伏見城の築城資材運搬のため、堤防をつくったことで水の流れが変わった。その後頻繁に洪水をおこし、明治18年の洪水では、大阪府の世帯数の約20%となる約7万1000戸が約4メートル浸水した。この水害を機に淀川改良工事が始まり、巨椋池は独立した池となり、水質が悪化し、巨椋池沿岸はマラリア流行指定地になってしまった。無用有害な存在となった池を農地に転換する声が高まり、国内で初めての国営干拓事業が行われ、昭和16年に完成した。

 いまある地形は、自然と人間との長い綱引きのような営みの中でつくられたことが分かる。本書は、地理や地形学、地学で学ぶさまざまな事柄を解説しているので、「ブラタモリ」のサブテキストとして使えば、さらに番組をよく理解することができるだろう。

 BOOKウォッチでは、『増補改訂 凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(宝島社)『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)『みる・よむ・あるく 東京の歴史 6』(吉川弘文館)『地形と日本人』(日経プレミアシリーズ)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 地形散歩のすすめ
  • サブタイトル凹凸からまちを読みとく方法
  • 監修・編集・著者名新之介 著
  • 出版社名学芸出版社
  • 出版年月日2021年11月 1日
  • 定価2200円(税込)
  • 判型・ページ数A5判・192ページ
  • ISBN9784761527969

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