読むべき本、見逃していない?

東京の街はスリバチだらけ 地図で凹凸を楽しむ

増補改訂 凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

 コロナ禍で散歩や街歩きもままならない日々が続く。せいぜい変化に富んだ東京の地形を本を通して楽しもうと手に取ったのが、本書『増補改訂 凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(宝島社)だ。東京は凹凸だらけ。暗渠、坂、湧水......「スリバチ」を知れば、見慣れた町が新しく見えてくる。

 著者の皆川典久さんは、1963年生まれ。東京スリバチ学会会長。2003年にランドスケープ・アーキテクトの石川初さんと同学会を設立。谷地形に着目したフィールドワークを東京都内で続けている。地形の専門家として「ブラタモリ」などに出演。著書に『東京スリバチの達人 分水嶺東京北部編』『同東京南部編』(昭文社)などがある。

 第1部は「スリバチ」とはなにか、を論じた概論。第2部では六本木や渋谷など具体的なエリアごとに、地形を語っている。

 東京は北を荒川、南を多摩川にはさまれた武蔵野台地の表面上を、西から東へ流れる7筋の河川が谷を刻み、東西に7つの丘が連なるユニークな地形になっている。

 川は北から順に、谷田川(藍染川)、谷端川(小石川)、神田川、渋谷川、目黒川、立会川、呑川だ。分断された丘は北から順に、上野台、本郷台、豊島台、淀橋台、目黒台、荏原台、久が原台となっている。

 火山灰が降り積もった関東ローム層は浸食され、斜面は断崖状、谷はスリバチ状になっているのが特徴だ。「谷戸(やと)」「谷津(やつ)」と呼ばれ、関東各地に地名として残っている。

 東京の地名にも、渋谷、四谷を代表に、千駄ヶ谷、市ヶ谷、茗荷谷、谷中などが山手線内に、外側には富ヶ谷、幡ヶ谷、碑文谷、祖師谷、阿佐ヶ谷などが散らばっている。

 皆川さんは、そうした地形と町並みには法則性があり、「スリバチの第一法則」「スリバチの第二法則」と呼んでいる。

 第一法則は、「建物は地形の起伏を増幅するように建つ」ということだ。高台には高い建物が、スリバチの底には低層高密度な町並みが広がっていることが多い。

 第二法則は、丘と窪地が断崖で隔てられている地形的な特色が、そのまま町の不連続性を作るということだそうだ。台地から下町への変化は連続的ではなく不連続的に突然変わる。

 そして、スリバチ地形が作るユニークな都市風景を「公園系スリバチ」「下町系スリバチ」「再開発系スリバチ」に3分類している。

 ジェイ・キャストがある四谷は甲州街道沿いの台地にあるが、そこから両側に坂が広がっている。南に行けば、清水谷公園がある。紀伊家と井伊家の屋敷境で清水が湧いていたことから清水谷と呼ばれた。ホテル椿山荘東京や小石川植物園も公園以外の施設に活かされている谷戸庭園の例だ。

 窪んだ地形に集落を思わせる庶民的な町並みが続くのが、「下町系スリバチ」で、麻布十番商店街、戸越銀座商店街を例に挙げている。

 「再開発系スリバチ」の代表が、赤坂・六本木に広がるアークヒルズ、六本木ヒルズだ。谷戸地形をまるごと再開発したものだ。

3D地形図などで地形の高低が一目でわかる

 こうした一般論を押さえた上で、第2部では16のエリアを紹介している。強力なツールが3つある。エリア3D地形図、断面模式図、断面展開図(イメージ図)だ。普通の市街地図では分からない地形の高低がくっきりと描かれている。

 スリバチが守る町・六本木、谷のターミナル・渋谷、丘の上の谷・碑文谷、巨大スリバチ団地・赤羽、江戸を造った谷・日比谷などだ。

 渋谷は鉄道が集まるターミナル駅だが、渋谷川、宇田川といった川が集まるターミナルでもあるという。3D地形図を見ると、渋谷駅の北側で暗渠になった渋谷川と宇田川の川跡がY字形に交差している。宇田川のかつての氾濫原は「渋谷センター街」に整備され、水の代わりに人が溢れ、「川の合流地点であった駅前のスクランブル交差点にも人がなだれ込んでいる」。

 歓楽街の新宿・歌舞伎町は、明治時代までは長崎大村藩の別邸があり、蟹川という神田川の支流の水源があり、うっそうとした森林だった。大正時代に府立第五高女が建設されたが、東京大空襲で一帯は焼け野原になった。そして戦後、歓楽街となった。新宿アルタ裏から緩やかに下っていく斜面こそが、蟹川の削った谷の始まりだという。谷戸地形には人を呼び寄せる何かがある、と書いている。

 皆川さんは、地形マニアとして2015年に放送された「ブラタモリ仙台編」で案内役を務め、仙台の河岸段丘と四ツ谷用水という伊達政宗が築いた土木インフラを紹介した。仙台での知名度はいま一つだったが、放送の翌年に土木遺産に認定されたそうだ。その回は再編集され、4月3日夜7時半にアンコール放送される。

 番組の中でタモリが「上を向くな。下を見ろ」とつぶやいていたという。

 東京以外にもスリバチ地形はあるが、こうして本が出るのは、東京の歴史ゆえだろう。東京以外の人は自分の足で探索するところから始めてみてはいかがだろうか。

 本書は2012年に洋泉社から刊行された『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』を増補改訂したものだ。

 BOOKウォッチでは、『写真で愉しむ東京「水流」地形散歩』(集英社新書)、『「地図感覚」から都市を読み解く』(晶文社)などを紹介している。



 


  • 書名 増補改訂 凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩
  • 監修・編集・著者名皆川典久 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2021年2月19日
  • 定価1980円(税込み)
  • 判型・ページ数四六判・223ページ
  • ISBN9784299014467

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