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東京はなぜ「江戸」と呼ばれたのか?

地図と写真でわかる 江戸・東京

 新型コロナによる自粛で遠出の旅行を控える傾向が続いている。そこで一段と注目されているのが、近場の旅。マイクロ旅行とか、ご近所旅というそうだ。運動不足解消も兼ねて歩く人も少なくないらしい。本書『地図と写真でわかる 江戸・東京』(西東社)はそんな人に役立つ一冊。江戸・東京の歴史を約100枚の現代地図・古地図と解説で紹介している。類書の中では、ビジュアルが充実している。

「慶安事件」や「明暦の大火」

 東京に住んでいる人は、東京の歴史をどれくらい知っているだろうか。本書はポイントを押さえながら振り返る。以下の構成になっている。

 「第1章 江戸・東京10大事件」「第2章 江戸以前の歴史をたどる」「第3章 江戸の町づくりの歴史をたどる」「第4章 江戸城の歴史をたどる」「第5章 古地図と絵で見る江戸・東京」「第6章 名所めぐりと江戸の町」「第7章 江戸の地形と発展」「第8章 東京の歴史と発展」「第9章 寺社をめぐる」。

 「10大事件」では由井正雪らが徳川幕府転覆を謀ったという「慶安事件」(1651年)から関東大震災(1923年)までがコンパクトに解説されている。江戸時代に多かった大火の中では、「明暦の大火」(1657年)が登場する。2日間に3波にわたって広がった様子をイラスト地図でリアルに再現されている。江戸城はもちろん、大名屋敷160、旗本屋敷770、寺社350が焼け、犠牲者10万人としている。

 BOOKウォッチで先日紹介した『オランダ商館長が見た 江戸の災害』(講談社現代新書)には、たまたまこの火事の時に江戸に来ていたオランダ商館長の一行が逃げまどい、一行の中からも犠牲者が出ていたことが記されていた。本書の地図を眺めると、改めて被災地区の広さがわかる。

北区、足立区も海の中

 地名の由緒についても解説されている。「江戸」の語源は諸説あるが、「入り江の戸」説が有力だとしている。海が陸地に入り込んだ場所だ。そういえば東京や周辺には「戸」がつく地名がけっこうある。「松戸」(千葉県)、「青戸」「花川戸」(東京)、「杉戸」(埼玉)。これらはいずれも「水の出入り口」を意味していたという。

 縄文時代の東京はかなりのエリアが水面下だった。この時期の東京は、いわゆる武蔵野台地(荒川と多摩川とにはさまれた台地)の麓が海岸線だったので、内陸部の深いところでも貝塚が見つかっている。51ページにその詳細図が掲載されている。東京でいえば都心部や沿岸部のみならず、北区、足立区なども海の中だった。房総半島の海岸線が今より30メートルも上にあったことは、『海上他界のコスモロジー 大寺山洞穴の舟葬墓』(新泉社)に詳しい。

 江戸城は太田道灌が構築したといわれているが、徳川家康が、豊臣秀吉の命令によって1590年、江戸に入場したときは、石垣もなかった。「中世の土豪の館」が残っていただけだったという。家臣団の野営地や飲み水にも苦労したらしい。その後、堀を掘削し、埋め立てなど大改造に乗り出し、街並みや城を整備した。そのころ、家康の砲術顧問をしていたのが、オランダ人のヤン・ヨーステン。日本名は「八代洲」(やよす)。実際に彼が住んでいたあたりが、現在の「八重洲」だという。

江戸の地理的範囲は?

 現在の私たちが「江戸」というとき、その範囲が漠然としている。どのエリアが江戸だったのか。実際には江戸時代に、範囲が決まっていた。1698年、「傍示杭」というのが、江戸各所の道筋に建てられて、その内側が江戸とされた。73ページに地図が掲載されているが、案外狭い。品川-渋谷-四谷-駒込-浅草-本所あたりを結ぶラインだ。域内では荷物を運ぶ馬に乗って通行することは禁止だった。そのため「下馬杭」とも呼ばれたという。その後、1818年にかなり拡張され、現在の目黒、中野、板橋、荒川区なども含まれるようになっている。

 本書では「第6章 名所めぐりと江戸の町」「第9章 寺社をめぐる」で観光先を特集している。このほか各章で、関連のスポットについてミニ案内を掲載している。本書を読みながら、近場に残る歴史の香りを訪ねてみるのも楽しいかもしれない。写真やイラストがふんだんに使われ、索引もあるので、小学生でも読むことができる。

 1章の「10大事件」では安政の大地震や黒船来航、明治維新、関東大震災も取り上げられている。BOOKウォッチでは関連で、『「江戸大地震之図」を読む』(角川選書)、『近世の巨大地震』(吉川弘文館)、『幕末日本の情報活動――「開国」の情報史』(雄山閣)、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)、『江戸東京の明治維新』(岩波新書)、『榎本武揚と明治維新』(岩波ジュニア新書)、『維新と科学』(岩波新書)、『関東大震災』(文春文庫)、『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』 (ちくま文庫)なども紹介している。



 
  • 書名 地図と写真でわかる 江戸・東京
  • 監修・編集・著者名西東社編集部 編
  • 出版社名西東社
  • 出版年月日2020年3月13日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数B6判・215ページ
  • ISBN9784791629299
 

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