読むべき本、見逃していない?

「ブラタモリ」が始まる以前から歩いている

写真で愉しむ東京「水流」地形散歩

 東京の地形を探索する本は、NHKの人気番組「ブラタモリ」の影響もあり、次々と出版されている。本書『写真で愉しむ東京「水流」地形散歩』(集英社新書)は、写真家で東京工芸大学教授の小林紀晴さんがシノゴ(4×5)と呼ばれる大型カメラを携えて東京を歩き、上京以来の個人史と重ね合わせて、東京の地形を撮影・記述しているのが類書と違うところだ。

 最初に向かったのは、長野から上京して最初に住んだ、学校に近い東京都中野区本町から弥生町周辺。神田川が氾濫し、同級生たちが登校出来なかったことがあるという。初めて東京の「野性」を意識した瞬間だった。

 東京を西から東に流れる河川の場合、北向き(南側)の斜面より南向き(北側)の斜面の傾斜の方が、急なことに気がついたという。霜柱との関係でそうなるという学者の説を紹介している。小林さんの写真が急斜面を的確に撮影している。

 確かに東京は、いたるところに急な斜面がある街だ。評者は東京、名古屋、大阪のいわゆる三大都市に勤務したことがあるが、東京ほど坂が多い街はない。名古屋は名古屋城から熱田神宮に至る台地が比較的高く、両側に斜面があるが、それほど意識するほどではない。大阪も同様に大阪城を起点とする上町台地沿いに夕陽丘など、いくつかの坂が存在する。そうした地形を利用して城下町を形成したのが、名古屋における徳川家康であり、大阪における豊臣秀吉であったことは、前述の番組でも紹介されていた。

 弥生町という地名で明らかなように、小林さんが向かった地点には弥生時代の遺跡がある。神田川と善福寺川の合流点に近く、小林さんは岬のような光景を写真にとらえている。1万年前からあった地形だが、いまはコンクリートの壁がそびえるばかりだ。

 監修・解説の今尾恵介さんは「宅地化に追いつかなかった河川改修」として、自然河川を「カミソリ擁壁化」して排水溝に変身させる工事が進んだと説明する。

 小林さんは、中野区の妙正寺川、国分寺市の野川、練馬区の石神井川など、都内のいくつかの川を訪ね、その由来と現況を書きながら、写真を撮り続ける。

川が語る人々の営み

 日本列島は隆起と沈降を重ね、現在の地形をかたち作ってきた。現在の東京湾の大部分が陸地であり、中央を古東京川という川が流れている時代もあった。その頃の浸食によって現在も深い溝が東京湾の中央を貫いていることは、よく知られている。

 同じようなことは全国各地にある訳だが、東京は中小の河川が入り組んでいたのと、江戸、明治以降、首都としてさらに人工的な改変が繰り返されてきたため、より注目が集まっているということだろう。

 野川の崖線は、大岡昇平の『武蔵野夫人』の舞台となり、渋谷川は、唱歌「春の小川」に取り上げられるなど、東京の「水流」=川は、文学・芸術作品のモチーフとして「昇華」されてきた。全国各地の川からしたら、うらやましい限りである。

 小林さんが自分の人生と重ね合わせて、東京の川を見つめたように、私たちも身近な川を意識してみたらどうだろうと思った。東京の川ばかりに「物語」があり、「偉い」訳ではない。水が流れ、人々が暮らすところには無数の「物語」があったはずだ。川は、雄弁にその歴史を物語ってくれるだろう。

 本欄では『凸凹地図でわかった!「水」が教えてくれる東京の微地形散歩』を紹介している。

  • 書名 写真で愉しむ東京「水流」地形散歩
  • 監修・編集・著者名小林紀晴 著、今尾恵介 監修・解説
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年11月21日
  • 定価本体価格820円+税
  • 判型・ページ数新書判・218ページ
  • ISBN9784087210569

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