NHKの人気番組「ブラタモリ」の影響なのか、最近、石の本をよく見かける。BOOKウォッチでも『鉱物(いし)語り』(創元社)を紹介したばかりだ。色鮮やかなさまざまな鉱物が取り上げられていた。岩石は鉱物から成る、ということを知った。そんなときに、本書『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)を見かけたので、「アレッ」と思った。本当に三つでわかるの? 世界にはたくさん岩石があるのに。
著者の藤岡換太郎さんは、理学博士。海洋研究開発機構特任上席研究員などを歴任、現在は神奈川大学などで非常勤講師をつとめる。「しんかい6500」に51回乗船し、太平洋、大西洋、インド洋の三大洋初潜航を達成した。著書に『山はどうしてできるのか』『海はどうしてできたのか』『川はどうしてできるのか』(いずれも講談社ブルーバックス)がある。
まず石はいったい何種類あるのか? 藤岡さんは、3000種類あると言われているが、実態はよくわからないという。同じ石でも呼び名が違うこともあり、正式名称がはっきりしていないものも多い。だから、本書では科学的に意味のある石、地球の進化史にとって重要な三つの石に絞って話を進めている。
その三つとは、「橄欖(かんらん)岩」、「玄武岩」、「花崗岩」だ。地球の全体積に、これらの三つの石が占める割合は、橄欖岩が82.3%、玄武岩が1.62%、花崗岩が0.68%、ほかには金属が15.4%だ。地球は事実上、これだけで出来ているという。
そして地球の構造をこう説明する。
「鉄の球(核)の周りを橄欖岩が取り囲み(マントル)、その周囲に玄武岩(海洋地殻)と花崗岩(大陸地殻)が薄く張りついているだけにすぎない」
しかも、橄欖岩から玄武岩、玄武岩から花崗岩へと、基本的には一つの「元祖」から枝分かれしていったというのだ。
そして、三つの石について、それぞれ章を割いて解説している。そのエッセンスはこうだ。
橄欖岩はマントルをつくる緑の石だ。あざやかな緑色をしている。だから、オリーブの中国名である橄欖の名をあてたと藤岡さんも思っていた。ところが、オリーブと橄欖はまったく別の植物で、オリーブはモクセイ科であり橄欖はカンラン科だった。幕末の日本にオリーブが入ってきたときに中国の橄欖だと思いつけた誤訳が、そのまま適用されたそうだ。
ややかしいことに橄欖石というものがある。橄欖石は橄欖岩をつくるいくつかの鉱物のうち主要なものという関係にあり、橄欖岩そのものとは違う。大粒で透明度の高いものが、8月の誕生石「ペリドット」だ。
橄欖岩はマントルを形成するから普通は見えないが、地表に露出しているものがある。ただし、水にふれると性質が変化し、もろい「蛇紋岩」になる。日本では北海道・日高山脈の西にある神居古潭谷(旭川市)や岩手県・北上山地の早池峰山、尾瀬国立公園にある至仏山(群馬県)などにある。
そう言えば、「ブラタモリ」で、石狩川が旭川の盆地から石狩平野に流れ出しているのは、神居古潭谷のもろい地質のせいだった、と説明していた。至仏山も登山客の増加によって蛇紋岩のもろい山体が侵食されるため、一時は入山禁止になったそうだ。
近年、地震波の研究が進み、マントルがけっして均質ではないことがわかってきた。地球内部で部分的に温度が高くなっているところはマントルが柔らかくなり、流動する「プルーム」と呼ばれている。「プルームテクトニクス」という現象も注目され、橄欖岩は地震研究の鍵を握っている、と書いている。
玄武岩はマントルが部分的に溶けてマグマとなり、冷えて固まったものだ。だから、玄武岩は橄欖岩の「子ども」と言える。玄武岩は海底をつくる黒い石だ。しかし、日本に玄武岩で出来ている珍しい山がある。富士山だ。
ユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈み込み、さらにそこへ東から太平洋プレートが沈み込んで、3枚のプレートが接する「三重会合点」という世界でもまれな場所の真上に富士山があるという。そのことと富士山が玄武岩で出来ている具体的なメカニズムはわかっていないが、ただならぬ場所だからこそ、あの均整な山体があるという説明は理解できる。
最後に花崗岩。日本全般に分布し、石垣や墓石に利用されてきた。関西は白い花崗岩が風化した真砂が多いため地面も白っぽい。これに対して関東は富士山から飛んできた玄武岩質の火山灰によって黒っぽい地面になっている。
花崗岩がどうやって出来るのかは長い間、論争があったそうだ。現在では、玄武岩質マグマから結晶分化して出来た安山岩からなる最初の大陸地殻を原料として、花崗岩からなる大陸地殻が形成されたということが定説になっている。この問題を解決したのが、大陸移動説をきっかけとして1960年代に確立されたばかりのプレートテクトニクス理論だった。
大量の花崗岩質マグマは、冷却にともなって大量の熱を発する。有馬温泉(兵庫県)など日本の温泉の6割が花崗岩を母岩としているそうだから、日本の温泉の生みの親と言っていいだろう。
本書はこのほかに、「第4章 石のサイエンス 鉱物と結晶からわかること」「第5章 三つの石と家族たち 火成岩ファミリーの面々」「第6章 三つの石から見た地球の進化 地球の骨格ができるまで」と、さらに深く説明を進める。
中学の理科では、「玄武岩」「安山岩」「流紋岩」「斑糲(はんれい)岩」「閃緑(せんりょく)岩」「花崗岩」の6つの石の名前を覚えることになっているそうだが、覚えている人はいるだろうか。本書ではカレー鍋にたとえて、わかりやすくその生成を説明している。
そもそも、石はおもに酸素とケイ素からできており、惑星の形成によって生まれたものだ。地球の進化から説き起こされ、腑に落ちた。
高校でも地学は暗記科目と敬遠されるが、本書のように系統的に説明されると理解が進む。石の世界がますます身近になったような気がする。
本書は2017年5月に刊行され、昨年までに8刷を重ねている。ロングセラーになる気配があるので、紹介した次第。
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