読むべき本、見逃していない?

地球が生んだ宝、鉱物に魅せられた元新聞記者が書いた図鑑

鉱物(いし)語り

 NHKの人気番組「ブラタモリ」では、岩石がその土地の性格を決定づける「宝」であるという話がよく登場する。タモリがすごいのは、一目見て、だいたい岩石の名前を当てることだ。地元の地質の専門家が少し悔しそうな顔をするのも毎度のこと。花崗岩とか凝灰岩とか石灰岩とか、番組を見ているうちに岩石の名前を覚えた人も多いだろう。2017年に「ブラタモリ」の制作チームは日本地質学会から表彰されたくらいだから、その「地質」愛は筋金入りだ。

鉱物と岩石の違いは?

 本書『鉱物(いし)語り』(創元社)の著者、藤浦淳さんは鉱物に魅せられた元新聞記者。本書のきれいな鉱物の写真を見るうちに、鉱物と岩石の違いは何だろう? と頭が混乱してきた。

 徳島県立博物館がだいぶ前に開催した企画展「鉱物の世界」の解説によると、鉱物とは地球の地殻や惑星をつくる天然の均一な無機質な固体のことで、英語ではmineral(ミネラル)という。多くの鉱物はほぼ一定の化学組成で、何らかの結晶としての性質をもっている。よく知られた鉱物には石英やダイアモンドなどがある。種類は約4200種類あるが、よく目にするのは100種類ほどだという。「ミネラル豊富な天然水」という表現をよく聞くが、微量ながら鉱物を飲んでいる訳だ。

 鉱物は岩石とよく混同されるが、日常的に「いし」と呼ばれているのはほとんどが岩石。花崗岩や石灰岩などは岩石で、拡大して観察すると、1種類以上の鉱物が組み合わさってできていることがわかる。だから、鉱物は岩石の構成要素であり、「地球の細胞」とも呼ばれるという。

 「岩石は鉱物から成る」と考えればわかりやすい。長い前置きになったが、この基本を押さえておけば大丈夫だ。

産経新聞の連載がもとに

 さて、藤浦さんだが、1964年大阪府生まれ。産経新聞大阪本社で主に事件、事故、災害担当として勤務。社会部デスク、和歌山支局長、文化部長を務めた。小学6年生のときに見つけたザクロ石がきっかけで鉱物の世界に入ったそうだ。

 仕事のかたわらも鉱物採集を断続的に続け、2006年以降、公益財団法人・益富地学会館の協力を得て紙面に鉱物の連載を2回実現した。2012年からは自分で原稿を書き、夕刊連載「宝の石図鑑」を7年間で238本載せるという、趣味を仕事に生かした「ナイスな新聞記者」人生を送った人だ。現在は清風学園清風中学校・高等学校常勤顧問のかたわら大阪経済法科大学客員教授などを務める。

 連載には災害や公害と鉱物のかかわり、世界各地の神話や日本の古典文学など、自然科学以外の視点も盛り込んだ。本書は連載をもとに分量を増やし、写真もすべて撮り直したという。

 「名前をめぐるストーリー」、「フィールドのみやげ話」、「文化の裏に鉱物あり」、「研究地と産地に敬意を」、「十石十色」の5つの章の50の話にそれぞれ、5、6種類の鉱物を取り上げている。きれいな写真を見て、興味をもったところから読めばいい。

 金に似たパイライト(黄鉄鉱)は知っている人も多いだろう。花崗岩や砂岩などの粘土中にも見られる金色の鉱物だ。西洋では「フーリッシュ・ゴールド(愚か者の金)」などと呼ぶそうだ。

宮沢賢治と鉱物

 「イーハトーブの夜の青」のタイトルで紹介しているのは、カイヤナイト(藍晶石)。宮沢賢治の『まなづるとダァリヤ』という童話に「その黄金(きん)いろのまひるについで、藍晶石のさわやかな夜が参りました」という一節があるそうだ。幼いころは「石っこ賢さん」と呼ばれるほど鉱物好きだった賢治。このほかにも賢治作品にはサファイア、トパーズ、バイオタイト(黒雲母)など鉱物がたくさん登場するという。

 先日放送された「ブラタモリ」の岩手県・花巻の回では、北上山地と奥羽山脈という由来のまったく違う地質の山々から川を流れてくる岩石が、ちょうど花巻あたりの河原に堆積するので、いろいろな岩石が見られるという話を紹介していた。

 藤浦さんも「彼が長じて農林学校の先生になったのは、飢饉や冷害に苦しむ農民を救いたいという思いがあったのかもしれませんが、もうひとつ、地質や土壌といった農業に不可欠な地学的な興味や知見を持っていたからに違いありません」と書いている。

どうやって採集する?

 ところで、実際の鉱物採集はどうやるのだろうか? 本書のあちこちに、関連する記述がある。

 「みんなを連れての河原での鉱物採取中」「鉱山の稼働中には不要な石を捨てる場所だったズリでハンマーをふるっていると」「ひとり黙々と古い鉱山跡で石を割っていました」「和歌山県で蛇紋岩の露頭を叩いていたら、突然鮮やかな青緑色の鉱物が出てきました」「ある島で遊歩道を歩いていて、地面に何気なく目を落としたところ、小さなとんがり帽子のような水晶の先端を見つけました」

 偶然河原や山中で見つけることもあるようだが、ズリという鉱山の石の捨て場所が宝の山のようだ。許可がいることもあるから注意が必要だ。

 本書には図鑑にありがちな無味乾燥な記述はあまりない。ときには著者が登場したり、古今東西の石にかんするエピソードを紹介したり、元が産経新聞(大阪)の夕刊連載だけに、読ませる工夫に満ちている。小中学生の自由研究の参考になることを想定している。

 藤浦さんの自宅には1500点の鉱物・化石標本があり、地元の大阪・貝塚市立自然遊学館では寄贈標本の中から約100点を「近畿の鉱物」として常設展示している。本書の写真はすべて、この手持ちの「石」を自分で撮影したものだ。さまざまな色を放つ石を見ていると、地球生成の不思議を思わずにいられない。

  • 書名 鉱物(いし)語り
  • サブタイトルエピソードで読むきれいな石の本
  • 監修・編集・著者名藤浦淳 著
  • 出版社名創元社
  • 出版年月日2019年10月20日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・219ページ
  • ISBN9784422440194

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