河原や浜辺で美しい石を見つけて、つい拾ったり、集めたりしたことはありませんか。本書『素敵な石ころの見つけ方』(中公新書ラクレ)は、そうした趣味が高じて、国内外を歩き回ってきた渡辺一夫さんによるガイド本だ。1941年生まれの渡辺さんは、出版社の勤務を経てフリーの編集者・ライターになり、石に魅せられ、石について多数の著書がある。残念ながら今年亡くなられたそうなので、本書が遺作かもしれない。
全体は5章にわかれている。「第1章 石ころにはどんな種類があるのか」「第2章 石ころ探しの舞台、川原と海岸」「第3章 旅に出たならこの石ころを探せ<国内編>」「第4章 旅に出たならこの石ころを探せ<海外編>」「第5章 石ころともっと仲良くなる」。
この中で読者が最も気になるのは「第3章」だろう。ちょっと遠出したときにこそ、すばらしい石に巡り合うチャンスが増える。どこに行けば見つけやすいのか。
渡辺さんが、川原での石ころ探しの場所としてピカ一、と推奨しているのは長野県の高瀬川。飛騨山脈を水源に大町市から松本市を流れている。いざ川原を歩き始めると、あっちもこっちもと、欲張り心で目がくらみそうになるという。
川原よりもたくさんの種類の石に出合えるのは海岸だ。中でも全国で一、二を争うのは天竜川が太平洋に注ぐ静岡県の浜松市・磐田市あたりと、新潟県の姫川が日本海に注ぐ糸魚川市の浜だという。火成岩、堆積岩、変成岩など多種多様な石を見つけることが出来る。
石は古来、ちょっと軽く扱われてきた。「玉石混交」といえば、玉との比較で石はダメなほうだし、「他山の石」というのも、よくないことのたとえだ。「路傍の石」といえば、下積みの象徴。辛い人生に耐える雑草の世界だ。
映画にもなった、漫画家つげ義春さんの「無能の人」の主人公も石の関係者。多摩川の川原で拾った石を掘っ立て小屋に並べ、石を売る商売を始めたものの、全く売れない。それは当然だ。川原で拾ったような石は、ネットで見てもただ同然の値付けしかされていない。
したがって、本書が推奨する「石ころ探し」はカネ目当てではない。そこが清々しい。無用の用、俗界から韜晦し、心の断捨離をしたい向きにはぴったりかもしれない。
ところで、本書で初めて知ったのだが、どの県にも「県の石」というのがあるそうだ。日本地質学会が定めている。栃木県は大谷石、長野県は和田峠の黒曜石、群馬県は鬼押出しの溶岩、山梨県は青木ヶ原の溶岩、山口県は秋吉台の石灰岩、佐賀県は有田の陶石、福岡県は筑豊の石炭、などなど。各県の特徴がよく表れている。
和田峠の黒曜石は旧石器・縄文時代の日本列島を支えたことで知られる。日本で陶器が生まれるには、有田の陶石が必要だった。石炭は言うまでもない。こうしてみると、石に歴史あり、また石の中にも「玉」があることもわかる。
あの宮沢賢治も晩年の本業は砕石工場の技師で、石から土壌改良剤をつくろうとするなど石にかかわる仕事をしていた。岩手県の一関市には「石と賢治のミュージアム」もある。
本書は代表的な石について、口絵カラーで紹介している。代表的なものや変わった色合いの石が47点。まるでパン屋さんの店先で、メロンパンやアンパンをながめている気分になる。好みの石を見つけたら、辞書のようにそこだけ読んでも楽しめる。ふだんは見すごしている路傍の「石ころ」にも様々な出自と名前があることが確認できる。私たちと同じなのかもしれない。
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