「どんなに今が苦しくても、楽しいことを探して、それを最高に面白がって生きていこう。」
辻仁成さんの『ちょっと方向を変えてみる 七転び八起きのぼくから154のエール』(文春新書)は、ここ3年ほどの間に辻さんがつぶやいてきた言葉から、厳選した154の言葉を収録したもの。
毎日不安の連続、人生には思いがけぬ災難も降ってくる......。そんな困難なときを乗り越えるための、励ましと癒しの言葉集。
「60年以上、この世で生きてきたけれど、人生はまこと、山あり谷ありの連続で、山があるならまだしも谷が延々と続くこともあり、思えば、そういうぼくを支えてくれたのは、考えさせられたのは、時には導いてくれたり、目を覚まさせてくれたのは、まさに『言葉』であった」
辻さんはパリで暮らして10年ほどが過ぎた頃、日本の状況がわからず、望郷の念にもかられ、ツイッターをはじめた。すると、ほどなくして東日本大震災が発生。辻さんにとってツイッターは、1万キロ離れた祖国の人々にエールを送る場所になった。
その後、離婚してシングルファザーになり、当時小学生だった息子とふたりきりになったとき、今度は逆に、フォロワーから励まされた。ツイッターは次第に、辻さんの癒しの広場になっていった。
ツイッターでの短文発信は休むことなく、毎日、10年以上続いている。辻さんは自身のツイートについて、「極めてシンプルな日本語がここに集結している」と書いている。自分自身がその言葉に励まされ、日々を乗り切っていったという。
「本書の魅力をあげるならば、筆者自身が忘れてしまうほど、日々の何気ない感情の発露がここに、軒下のつららのように濡れ光っている、ということじゃないか。いずれ、溶けて消えていくような言葉たちかもしれないが、その光を見つけた方々の心に永遠に残る輝きを残せれば、と思う」
本書は「第1章 一日の始まりに」「第2章 ストレスに苦しむあなたに」「第3章 真の友人がほしいあなたに」「第4章 85歳の母さんから贈られた大事な言葉」「第5章 父ちゃんから息子へ贈る言葉」「第6章 父ちゃんの座右の銘『誰の人生だよ』」の構成。1ページに1ツイートを掲載。ところどころにパリの日常を収めた写真も。
たとえば、1日の始まりにはこれ。
今日はいい日
ぼくは朝から昼までの間に小さくてもいいから
何かいいことが起きたら、それをつかまえ離さず
今日をいい日と決めつけて乗り越えていくようにしています。
今日はいい日だ、と決めつけてください。
気分が上がれば運気もつられて上がります。
思い込み、大事だね!
おはよう、今日を精一杯生きたろう。
辻さんのツイートによく出てくる「とんとんとん」とは?
「とんとんとん」の秘密
「とんとんとん」の秘密。
人間の胸の中心に自律神経の森が広がっている。
森はストレスの雪で覆われている。
指先で優しくとんとんとんと叩くと
森に重く降り積もっている雪が振り払われストレスが楽になるよ。
ただし、そっとノックすること。
やってみて。
おやすみ、よく生きました。とんとんとん。
自分は味方だと、あなたならどんな言葉で伝える?
味方の言葉
「あの、辻さんがさ、
なんか変なことして世の中にボコボコにされたとしても
自分は辻さんのずっと味方だからね」
と若い奴に言われたことがあった。
変なことなんかしねーよ、と笑ったけど、
その言葉がいまだぼくを励ましてる。
味方がいるって思うだけで、やっていける。
きつい時に思い出すと頑張れるね。
迷ったときの道標にしたいのはこれ。
もしも選ぶなら?
もしも、今日、どっちにするかで、悩む場面に出くわしたなら、
すぐに成果が出なくとも、
あなたがいずれ幸せになれそうな方を選んでください。
もしも、分かれ道に出くわしたなら、
あなたがいつか希望が持てそうな方を選んでください。
ほかにも「過去に振り回されてると現在が損します。ピッ。終了。」「いい人にはなれない、と心の片隅に彫刻刀で彫りつけておくと、楽ですよ。」「その一生は自分自身のもの。はばかることなく、生きましょう。」......など。
壁にぶち当たったり、どん底に突き落とされたり、はたまたなんとなく憂鬱だったりしたときに、手を伸ばしてページをめくってみると、そのときの気分に合う言葉が見つかるだろう。「パリ在住の日本の父ちゃん」からのエールは、さらっと読めるけどじんわりくる。
■辻仁成さんプロフィール
1959年、東京生まれ。作家、ミュージシャン、映画監督、料理研究家と幅広い分野で活躍している。『ピアニシモ』ですばる文学賞、『海峡の光』で芥川賞、『白仏』の仏語翻訳版『Le Bouddha blanc』でフェミナ賞の外国小説賞を受賞。『十年後の恋』『真夜中の子供』『人生の十か条』『立ち直る力』『パリの"食べる"スープ』など著書多数。パリ在住。
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