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まさに今、読んでほしい。明日を生きるための「言葉の花束」

言葉の花束

 孤児、養子縁組、貧困、いじめ、差別......。

 「平坦な道など一切なかった。だからこそ、傷を抱えたアナタに同じ気持ちで寄り添える。明日を生きるための言葉を紡いで贈る14の花束。」

 イラン出身の俳優・タレントで、人道支援活動などもしているサヘル・ローズさん。本書『言葉の花束 困難を乗り切るための"自分育て"』(講談社)は、サヘルさんが養母からもらった言葉、自身から生まれてくる言葉を紡いで花束にした1冊。

 「この本では私の経験を通して、いじめの問題や家族との在り方、生きる道の模索......さらには今、孤独を感じている多くの人たちへ何か生きるうえでのヒントでしたり、【もう1日生きてみよう】そんな風に思ってもらえる言葉を紡いでいきたいです」

砂浜に咲くバラ

 サヘルさんは、自身の本当の名前も生年月日も知らない。どちらも後からつけられたものだという。

 サヘルさんが生まれた当時のイランは、イラン・イラク戦争のさなか。国全体が困窮し、多くの子どもたちが孤児院へ。サヘルさんは4歳から7歳まで孤児院で過ごし、奇跡的に、義母となるフローラ・ジャスミンさんと出会う。そして1993年、8歳のときに日本へ渡った。

 「サヘル・ローズ」という名前は、フローラさんがつけたもの。ペルシャ語で「砂浜に咲くバラ」の意味で、こんな願いが込められている。

 「バラは砂浜に咲くことができない。アナタが大人になってどんなに過酷な状況下に置かれても一輪のバラのように凜と咲いて」

血縁関係はなくても

 サヘルさんに血縁関係のある家族はいない。心から愛し、厳しくしてくれたフローラさんのおかげで今があると、感謝している。

 フローラさんは一流大学の大学院の学生で、大学教授を目指していた。ところが、たまたま出会ったサヘルさんのために、夢も祖国も「犠牲」にする道を選んだ。

 当時のイランでは、子どもを授かれない人にしか養子縁組の資格は与えられなかった。そこでフローラさんは、親の反対を押し切り、手術をして産めない体になった。日本に渡ってからは、トイレ掃除や床拭きの仕事をしたり、職場でいじめに遭ったり、真冬の公園で生活したりしたこともあった。

 サヘルさんの壮絶な生い立ちとともに、フローラさんのあまりにも大きな愛に、言葉も出ない。

私は救われた

 サヘルさんは「中学3年間の【いじめ】が私の人生のふたつ目のターニングポイント」と振り返る。親、母国、自身のことをからかわれ、無視され、そのうち「死にたい」と思うように。

 ある朝、いつもどおり登校し、早退した。フローラさんが仕事から帰ってくる前に、死のうとしたのだ。ところが、フローラさんは家にいて、コーランを抱えて泣いていた。

 「どうして泣いているの?」と聞くと、「疲れたよ」と言った。母の口からはじめて聞く「疲れた」だった。サヘルさんも「疲れたんだ、死にたいんだ、お母さん」と言うと、「いいよ、でも、お母さんも一緒に連れて行って」と言った。

 「【いいよ】という言葉、この言葉が聞けた瞬間、私は救われた。そんな気がして。死にたいという娘に対して最大級の愛情に満ちた言葉だった。(中略)どんな言葉よりも【味方でいてくれる言葉】それが家族には必要なんだと感じた瞬間でした」

人生には敵も味方もない

 本書はコロナ禍に突入した頃から2年がかりで完成したものだが、現在の状況を見ながら書かれたかのような言葉も出てくる。

 「人生には敵も味方もない」――。これは、フローラさんがサヘルさんを引き取ったときから言い続けてきた言葉。

 「戦争は誰かを敵にして、味方を作ろうとする。でも戦争は全員が被害者。敵も味方もない、みんなが犠牲になっているだけ。いつも犠牲になっていくのは一般市民。そして時代に翻弄されていくのも生き延びた子どもたち。だからあなたは【憎む感情を捨てなさい。人を許すことを学びなさい】」

 イラクを憎まない。自分をいじめた相手を憎まない。人を憎み、悪口を言うと、結果的に自分の表情が醜くなる。「中身から自分をつくっていきなさい」――。この教えを、サヘルさんは大切にしている。

 言葉は武器にもなるし、花束にもなる。当事者ゆえの、温度を感じる「言葉の花束」。まさに今、子どもから大人まで読んでほしい。


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■14の「言葉の花束」

家族の縁に恵まれなかったアナタへ
Bouquet01「誰かの瞳に映った私」が、私の孤独を癒やす

親子なのに気を遣ってしまうアナタへ
Bouquet02 衝突は本音をさらけ出す良い機会

死にたくなってしまいそうなアナタへ
Bouquet03 やっと見せた「親の弱気」に私は救われた

いじめられているアナタへ
Bouquet04 頑張らなくて良い勇気

愛の注ぎ方に戸惑う親御さんへ
Bouquet05 大丈夫、そこに存在しているだけで良い

大きな愛の偉大なアナタへ
Bouquet06 縁あっての親子、来世もきっと

親代わりのお仕事の皆様へ
Bouquet07 「相手」でなく「愛手」に

世界を旅して出会ったアナタへ
Bouquet08 難民の難は難しい民ではない

多様性の過渡期に立つ人々へ
Bouquet09 心には、国籍も国境も関係ない

私の「心の花壇」より
Bouquet10 母の教え

ウィズ コロナを生きていくこれからの私たちへ
Bouquet11 サヘル流 新しい行動様式

病気と闘うアナタとご家族へ
Bouquet12 共に生きるということは共に歩むということ

適職に迷っているアナタへ
Bouquet13 先輩たちからのエール

世の中のシステムからこぼれた気がするアナタへ
Bouquet14 あきらめなければ誰かは見てくれている

■サヘル・ローズさんプロフィール

 俳優・タレント。1985年イラン生まれ。幼少時代を孤児院で生活し、フローラ・ジャスミンの養女として7歳のときに引き取られる。8歳で養母とともに来日。高校時代に受けたラジオ局J-WAVEのオーディションに合格して芸能活動を始める。レポーター、ナレーター、コメンテーターなど様々なタレント活動のほか、俳優として映画やテレビドラマに出演し、舞台にも立つ。芸能活動以外では、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。私的にも援助活動を続け、公私にわたる福祉活動が評価され、アメリカで人権活動家賞を受賞。著書に『戦場から女優へ』(文藝春秋)、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏との共著に写真詩集『あなたと、わたし』(日本写真企画)がある。


※画像提供:講談社



 


  • 書名 言葉の花束
  • サブタイトル困難を乗り切るための“自分育て”
  • 監修・編集・著者名サヘル・ローズ 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2022年1月17日
  • 定価1,430円(税込)
  • 判型・ページ数B6判・206ページ
  • ISBN9784065266366

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