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もし、子どもが親を選べたら。「親ガチャ」時代の韓国ベストセラー。

ペイント

 「君たちは、親を選べる子どもなんだよ」――。

 イ・ヒヨンさん著、小山内園子さん訳の本書『ペイント』(イースト・プレス)は、「親子って結局、何?」を鋭い筆致で描いたヤングアダルト小説。

 本作は、日本でも話題を呼んだ『アーモンド』を生み出したチャンビ青少年文学賞受賞作。2019年の刊行直後にベストセラー入りし、韓国で30万部を記録。同国では中学校での必読書として紹介されているという。

 「子どもに親を選ぶことができたら。人類の究極の『IF』に挑んだティーン小説。大人こそ読んでこころの準備をしておいたほうがいい」(ブレイディみかこ)

主人公「ジェヌ301」

 本作の舞台は、近未来の韓国。主人公は「ジェヌ301」という17歳の少年。

 「子どもを欲しがらない人はますます増えていた。出産を奨励するために政府がさまざまな支援策を打ち出したが無駄だった。時間が経つにつれ状況はややこしくなった。政府は結局、新たな道へ踏み出した」

 「これからは国が責任を持って子どもを育てます」。親が子どもを育てられないとき、政府が引き取って養育することになった。

 北朝鮮と韓国の交流が増えて事実上の終戦宣言が出されてから、国防費予算は国民の福祉や出生率安定の資金になった。その最初が、国家の死活を賭けたプロジェクトである「NCセンター」の設立だった。

 そうしてジェヌは「国家の子ども(nation's children)」になった。「ジェヌ301」という妙な名前は、NCセンターに1月(January)に入ってきた301番目の男子、から来ている。

「ペイント」する子どもたち

 NCの子どもたちは「父母面接(parent's interview)」のことを、英語の発音が似ている「ペイント」という隠語で呼ぶ。

 「NC出身だという事実を絵の具で塗りつぶしてしまいたかったのだろうか。あるいは、自分の未来を希望の色で塗りこめたかったのだろうか」

 NCの子どもたちには、「ペイント」で親を選ぶ権利がある。NCで生活できるのは20歳になる年の春まで。それまでに養親を見つけなければ、IDカードに一生「NC出身」のレッテルが貼られる。

 社会にはNC出身者を差別する空気があった。だからNCの子どもたちは必死に「ペイント」して、早くそこから出ていこうとする。

今で、十分です

 「ペイント」にやってくる親候補はやさしげで、感じがよく、親切そうで、愛にあふれて見える。しかし、彼らの目当ては政府の支援金だった。思慮深く、慎重なジェヌは、彼らの本音を見抜いていた。

 「いくら相手が大人とはいえ、恐れたり顔色をうかがったりする必要はない。嫌ならいつでも『ノー』と言うのは僕らの権利であり義務だった」

 あるときジェヌは、ちょっと風変わりな親候補と「ペイント」する。彼らは自由で正直で、「彼らならちゃんと僕を理解してくれそうないい予感」がした。

 これまででいちばん「理想的な親」と出会ったジェヌ。家族って、親って、自分って......と考え、ある選択をする。

 「僕は肌で感じていた。小さかろうが大きかろうが、『家族』という社会がどれほど複雑に、かろうじて、成り立っているものかを」

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 著者が本作を執筆したきっかけは、ある児童虐待事件への「だから、親の資格のある人にだけ子育てをさせなくちゃ」という書きこみを読んだこと。当時は自身も子育て真っ最中で、「はたして親の資格って誰が与えるんだろう」と考えこんでしまったという。

 最近よく「親ガチャ」ということばを見かける。親としてはヒヤッとする発想だが、親を選べる・選べないというテーマは、日本だけでなく韓国でも関心が高いようだ。

 「韓国のたくさんの読者の方が、『ペイント』を読んでこう言ってくださいました。いい親はこうあるべき。いい子はこうでなければ。そんな教訓みたいな内容かと緊張したけれど、むしろ励まされたと。日本の若いみなさん、そして親のみなさんにこうお伝えしたいと思います。今のままで、十分がんばっていますよ。今で、十分です」(イ・ヒヨン)

 本書の特設サイトで試し読みができる。なんとも突飛な設定に驚くだろう。個人的には、文章表現がいちいち面白く、韓国文学にますますハマりそうだ。


■イ・ヒヨンさんプロフィール
 短編小説「人が暮らしています」で2013年に第1回キム・スンオク文学賞新人賞大賞を受賞し、デビュー。18年『ペイント』で第12回チャンビ青少年文学賞を受賞。30万部超えのベストセラーとなる。さらに同年『きみは誰だ』で第1回ブリットGロマンススリラー公募展大賞を受賞。他に長編小説『普通のノウル』、『サマーサマーバケーション』など。

■小山内園子さんプロフィール
 東北大学教育学部卒業。社会福祉士。訳書に、ク・ビョンモ『四隣人の食卓』、キム・ホンビ『女の答えはピッチにある』、カン・ファギル『別の人』、共訳書にイ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ』、『失われた賃金を求めて』、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』など。


※画像提供:イースト・プレス



 


  • 書名 ペイント
  • 監修・編集・著者名イ・ヒヨン 著、小山内 園子 訳
  • 出版社名イースト・プレス
  • 出版年月日2021年11月22日
  • 定価1,650円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・235ページ
  • ISBN9784781620237

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